[ 口移しなんて当たり前? ]





ない。
私の、チーズケーキがない。
会社の事務所の冷蔵庫の中に、私が買っておいたチーズケーキを入れておいたのに、箱に私の名前も書いておいたのに、なくなっている。
部屋には私以外に新人の女性社員が二人。
二人とも、チーズケーキは苦手と公言している。
私を騙しているのか。


「ねえ、私のチーズケーキ知らない?」
さんの名前が書いてた箱ですよね。昼休みはありましたよ」
「所長が持っていきましたよ」
「所長が!?」


持っていた書類を机の上に置き、私は大慌てで所長室へ向かった。
所長室の扉を勢いよく開いたが、そこはもぬけの殻。
隣の貴賓室をそっとのぞくと、ゴマをすっている所長とくつろいでいるルーファウスがいた。


「ルーファウス! どうしてここに! っていうか私のチーズケーキ食べるな!」
「そう慌てるな、
「慌てるよ! 私のチーズケーキ。特別に作ってもらったチーズケーキ・・・所長のバカ」


所長を睨むと、萎縮して部屋から出て行く。
天下の神羅カンパニーの社長に媚を売れば業績アップ、ボーナスもアップ、昇進確実。
普通の人だからこそ、そうするのだろう。
溜息をついて、ルーファウスとテーブルを挟んで向き合う。


「ルーファウス、仕事の邪魔はしないで」
「邪魔はしていない。事務所へは訪れていないだろ」
「屁理屈言うんじゃないよ、このバカ社長」
「君の上司と取引をしていただけだ。君の会社にとって有益な話なのだよ」
「そこでどうして私のチーズケーキを食べる?」
「チーズケーキが食べたい気分だったのだよ。それを所長が配慮してくれた」


そう言うと、最後の一口を口に運ぶルーファウス。
とうとうチーズケーキは私の口に入ることはなかった。
落胆して肩を落とし視線を床にやるが、顎を掴まれ視線は天井へ。
視界を遮るのはルーファウスの顔。
金髪がさらりと揺れた。


「食べたかったんだろ、チーズケーキ」
「ちょ、っと、何を?」
「口を開けろ。食べられなくていいのか?」


口移し?
チーズケーキの味が台無しだ。
でも食べたい。
少し口を開けば、ルーファウスの口から流れ込むチーズケーキ。
本当は冷たいはずなのに、ルーファウスの熱が絡んで生暖かい。


「うまいか?」
「普通に食べたらもっとおいしい」
「普通にとは?」
「冷蔵庫から出して、フォークで私の口に運ぶの」


廊下から小さな悲鳴が聞こえると思えば、貴賓室の扉が少し開いていて、所長と新人たちが盗み見ていた。
今日は最低だ。


「口移しなんて、愛し合う二人がするのは当然のことだ」
「愛し合ってなんかない!」
「そう恥ずかしがることはない」
「恥ずかしいとかそういう問題じゃなーい!」


まったく、いつまでこのバカな社長に付き合い続ければよいのだろうか。
たまには休みがほしいよ。




From 恋したくなるお題(配布)
バカップルな二人のお題【05. 口移しなんて当たり前?】


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社長の一方的攻め試合のお題で5本書きました。
いつから社長はこんなイメージがついたんだろ・・・ゲームだけじゃこんなイメージつかないよ。
もっとまともなもの書いてというご意見もお待ちしてます。
でないと、きっとこんなんばかり書いちゃうから。。

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