[ 1ミリの隙間も空けたくなくて ]





「今夜は冷えるな」
ハーブティーを優雅に飲みながら、ルーファウスが言う。
ルーファウスにハーブティーは似合わないな。
ブラックのコーヒーでも飲んで眠れなくなって苦しめ。


、何か言ったか?」
「いいえ、何も」


仕事を終え疲れ果てた体を引きずって帰宅したと思えばこれだ。
なぜ私の家の中にいる?
大家の奴、ルーファウスに高値で合鍵を売りつけたな。
許すまじ。家賃を値引きさせる!

電気ケトルに水を注いでいたら、背後にルーファウスがいて、私の手の上に手を重ねて、水道の蛇口を捻って閉める。
訴えようとして顔を後ろに向けると、そのまま口を口で塞がれる。
いわゆるキスってやつ。


「お湯沸かしたいんだけど。っていうかどさくさに紛れてキスするんじゃない、このバカ」
「冷えるから、に触れたい」
「邪魔。私はお腹空いたの」
「どうせカップ麺だろ。そんなもの食べるな。体に毒だ」
「じゃあ、誰が私の晩御飯を用意してくれるのよ」
「そのうちレノが届けにくる」


また部下を遣いにさせている。
何度か会ったことのある赤毛の男レノさん。彼もこんなルーファウスの部下として嫌な顔せず働くなんて物好きだな。
意識を他の方向へ飛ばしていたら、ルーファウスから羽交い絞めにされる。


「ちょっと、離して」
「キッチンは冷えるからな」
「じゃあリビングに行けばいいじゃない」
「断る」
「わがまま」
「そんなこと、昔からわかっている話だろう?」


そんなに長い付き合いではありません、私たち。
男の人の力に敵うわけもなく、私はただルーファウスのしたいようにさせていた。
顔をすり寄せてきたり、ぎゅっと強く抱きしめたり、腕を撫でたり。
私は手持ち無沙汰のまま、シンクを見つめる。


「離れたくない」
「ん・・・」
「離したくない」
「・・・」


今夜は冷える。
だから、人肌はとても温かくて心地よい。
黙ってされるがまま。

」と名前を呼ばれ、顔を後ろに向けると口付けられる。
触れた唇は温かい。
ただ、首が痛い。


「首、痛い」
「なら、こうだな」


ルーファウスは私の体をぐるっと回して、私とルーファウスは向かい合う。
そして抱き合う。
ただそれだけ。


「1ミリも隙間をあけたくない」
「ん、やだ」
「そのわりに抵抗しないんだな」
「ルーファウス、あったかい」
「!?」


さすがにルーファウスも私が甘えた声を出したから驚いたみたい。
その隙に、ルーファウスの胸を押し、突き飛ばしてやったら、見事に壁に背中をぶつけた。
ざまあみろ。普段こんな汚い言葉は使わないけれど、そういう気分だ。
当然、ルーファウスは怒りに満ちた瞳をこちらに向けてくるが、タイミングよく呼び鈴が鳴り、ドンドンガンガンと大きな音が玄関から聞こえた。
叩くな、扉をそんなに叩くな。壊れる。


「レノさんのデリバリーサービスだぞ、と」
「お待ちしてました〜。今夜のごちそうはなーに?」
「ミートドリアとかぼちゃのサラダ、クリームポタージュだぞー、うまそうな匂いがする!」
「いつもありがとう、レノさん」


ご飯に笑顔を向けないわけがない。
笑顔でレノさんを見送り扉を閉めリビングへ向かおうとすると、ルーファウスが仁王立ちで通路を塞ぐ。


「どういうつもりだ、
「何が?」
「レノに対する態度だ。私に対する態度と天地の差だ」
「当たり前じゃない。私の食べ物を運んできてくれた人だよ? 全身全霊でお礼するに決まってる」
「なら、その食べ物を手配した私にも、するのが当然だろう?」
「はいはい、ありがとうございます、ルーファウス様!」
「心がこもっていないな」


ああ、もう、面倒くさい。
一時的に喜ばせるために、私はかすめるようなキスをした。もちろん、ルーファウスに。
驚いて目を丸くする、ルーファウス。
その隙に、ルーファウスを壁側へ退かし、私は熱々のドリアをリビングで食すのだった。


食後、1ミリも隙間なく、ルーファウスにべったりとまとわりつかれたのは、また別の話。




From 恋したくなるお題(配布)
バカップルな二人のお題【04. 1ミリの隙間も空けたくなくて】

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あんまり隙間あけたくなくて感がないな・・・
ストライフデリバリーサービスのレノ版的な。
ご要望があれば、「また別の話」も書くかも。
書き終えた時点では何にも思いついてないけど。

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