[ 生 き て 、 未 来 を 見 て ]
吐きそうなくらい腹が痛む。
エッジの薄暗い路地。
倒れた人間。
怯える子ども達。
腹を押さえ、私は重い身体をひきずった。
痛みに耐えかねて、私は地に膝をつく。
誰も助けてはくれない。
誰も同情なんてしてはくれない。
誰も私を愛してはくれない。
そう、誰も。
星痕症候群に侵された私の身体は、この先、長くは持たないだろう。
痛むたびに、社長の顔を思い出す。
彼は、今、どこで何をしているのだろうか。
彼は二年前のあの日までに、一瞬でも私のことを愛してくれたのだろうか。
タークスとして最前線で働いていた私は、一体どこへいってしまったのだろうか。
咳き込んで、痰を吐いた。
黒いウミが混じっていた。
口からウミが出れば、先は長くない。
一目でいいから社長に会いたい。
例え、星痕に侵されていることで社長が私のことを切り捨てるとしても。
せめて、死ぬ前に一度でいいから…。
この後の記憶は、ベッドの上で白い天井を見上げているところから始まる。
薄暗く汚い路地で、私は倒れてしまったんだ。
少しめまいがする。
手を額に当てた。
なんだかなつかしい匂いがする。
真っ白な部屋。
ベッドと小さな机だけの、こじんまりとした、病室のように小ざっぱりとした部屋。
ノックもなしに部屋の扉が開き、ウィーンとモーターが動くような音がして部屋に誰かが入ってきた。
真っ白な布を頭からかぶっている人が、電動の車椅子に乗っている。
誰?あなたは誰?
「気がついたか?」
あぁ、その低くて感情のこもっていない声。
ずっと聞きたかった声。
「しゃ、ちょう?」
「そう、私だ、」
「ウェポンの攻撃を受けて…よく、生きてお戻りになられましたね。
もう、二度と会えないかと、思っていました」
社長が生きている。
私の目の前にいる。
布で顔が見えなくとも、ここにいるんだ、彼は。
涙があふれて視界がぼやける。
受け止めきれない涙がこぼれて頬を伝う。
社長の手が私の頬に触れた。
「が路地で倒れているところを、たまたまレノが見つけたらしい。
それは私のセリフだ、。…よく、生きて戻った」
「社長、でも私、もう先は長くないんです」
「星痕、か」
社長は知っていた。
きっと、レノが私を見つけたときに気付いたんだ。
口から黒いウミを吐いていた。
私の星痕は腹部にあるから、普段は誰にも気付かれない。
けれど、口から出してしまえば一目瞭然。
こんなお荷物はいらないもの。
だったら切り捨ててくれればいい。
私は、社長に生きて再会できただけで、もう十分。
そんな私に社長が投げかけた言葉は、驚くべきものだった。
「だけではない。私も星痕症候群に侵されている」
社長が差し出した右手の甲、しっかりと星痕が見受けられた。
その手を裏返し、私に手の平を向ける社長。
「、今はまだ生きている。共に生きて、今を大切にしよう」
「あ…、は、はいっ」
「それと、いつまで『社長』と呼ぶつもりだ?」
「あ…、は、はいっ、申し訳ありません、しゃちょ、あ、ル、ルーファウス」
社長、ルーファウスは頭からかぶっていた布を肩まで落とす。
変わらない、ルーファウスの綺麗な顔。
包帯を巻いていて左目は隠されているけれど、私に笑顔を見せてくれた。
「やっと笑ったな」
ルーファウスの笑顔を見て、笑顔になれた。
二年ぶりに笑ったんだ。
笑うことなんて忘れていた。
ルーファウスは、私の髪を弄んだり、顔に触れたり、私が眠りにつくまでずっと傍にいてくれた。
愛しい人から愛されている瞬間、幸せに満ちている。
神様、お願いです。
もう少しだけ、私をこの世界で生かしてください。
この人と、もう少しだけ、一緒にいたい。
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社長ー!!!!!!
ACCと同時発売の小説を読んで社長熱があがったので書きました。笑
社長、めっちゃかっこいいもんなー。