[ 卵とミルクの国家機密 ]





 パンケーキ食べたい。無性に食べたくなるのがパンケーキだ。生クリームにアイスをトッピングして甘さとろける王国の出来上がり。ホットケーキミックスで作ってはちみつシロップをかけるのもいいけれど、せっかくだから外に出かけて飲食店のパンケーキを食べたい。
 私の頭の中はパンケーキでいっぱいだ。
 ソファの隣に深く腰掛けているレノはそれが不満みたい。せっかくの二人揃った休日だから、いちゃいちゃしたいんだって。

「私はパンケーキが食べたいの!!!」
「俺はそうでもないぞ、と」
「ねぇ、ご飯食べに行こうよ。お腹は空くでしょ? パンケーキ以外のメニューもあるから、ランチにしよ」
「昼飯、パンケーキなのか? 胃もたれしそう……大丈夫か、と」
「胃は若いから大丈夫!」

 自分で言っておいて、胃が本当に健康体で若いかどうかは不明だけれど。
 レノは家でまったりしたいみたいだけれど、無理矢理外に連れ出してパンケーキデートに向かうことに成功した。

 普段は黒いスーツ姿のレノも、休日はVネックのセーターとデニムのパンツをラフに着こなしている。そもそも、スーツと言えどルーズな着こなしをしているレノだから、あんまり関係ないか。ちょっとペアルックにしてみようと、同じようにデニムのパンツをクローゼットから引っ張り出してきた。Vネックのセーターは色がデニムにあわないので、レノが着ているセーターと似たような色のトップスを探してみる。
 ペアルックなんて恥ずかしくて普段はお断りだけれど、今日はそういう気分だ。甘いものが待っているからかもしれない。レノは私が出かけるタイミングで着替えたことを不思議そうに見ていて、ペアルックもどきにはまったく気づいてなさそうだ。心の中で小さく笑ってガッツポーズをきめる。

 いざお店の前につくと、少し行列が出来ていた。ちょうどランチタイムだから仕方がない。レノと世間話をしながら店員に渡されたメニューを眺める。チョコバナナ、ベリー、苺、いろんな味のパンケーキがあり悩んでしまう。どれも食べたいけれど、私の胃の中に収まるのは一つだけだ。少し時間をおけば気持ちが変わるかもしれないと、レノにメニューを預けて腕組みする。チョコバナナ、ベリー、苺。チョコバナナ、ベリー、苺……ベリーかな。チョコバナナも捨てがたいけれど。

「メニュー決めるか? 相当悩んでるな」
「悩むよ〜。せっかくのランチデートだし」
「俺のこと眼中にない癖に。パンケーキ命って顔に書いてるぞ、と」
「そんなことないよ。レノと一緒のランチも楽しみにしてるよ。久しぶりのデートだもの。レノは? 食べるもの決めた? 私はベリーのパンケーキにするね。チョコバナナは今度にするよ」
「じゃあ俺はチョコバナナ」
「え?」

 パンケーキを食べたくはないようなことを家では言っていたのに、どういう風の吹き回し?
 レノは笑って言う。

「両方食べたくて仕方がないって顔に書いてるからな。半分こだぞ、と」
「そんなに私ってわかりやすい?」
「わかりやすいな」

 くつくつと押し殺すようにレノは笑い、私の頭をぽんと撫でた。
 店員に席へと案内されて、注文したパンケーキが焼きあがるのを待つ。ぼんやりしているレノを見て、私のわがままでランチデートにくりだし、挙句の果て、乗り気ではないパンケーキまで食べさせてしまうことを少し後悔している。タークスが汚れ仕事でハードなことくらい、神羅カンパニーの一般職である私だって知っている。貴重な休みをゆっくり過ごしたいと望むのも当たり前だ。
 水を一口飲んだレノは私の眉間を指で小突く。

「何考えてるか知らないけど、好きなもん食って、笑うを見られるのが俺の癒しなんだぞ、と。俺はパンケーキを食わないとは言ってないからな。俺にもベリーのパンケーキ食わせろよ、と」
「うん、ありがとう。帰ったら存分にいちゃいちゃしましょう」
「いいんだな? 遠慮しないぞ、と」

 私の望むことは実現してもらった。だからレノの望むことを実現する番だ。
 パンケーキを食べ終わったら、私の心と体は全部レノにあげる。










タイトルはOTOGIUNIONさんからお借りしました。


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FF7ACC 4Kコンバート上映を見て、のほほんとした話が書きたくなりました。

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