[ グッド・モーニング・キッス ]





 目が覚めて両腕をぐっと頭の上に向かって伸ばすと壁にぶつかってゴンといい音をたてた。ぶつけた手をさすりながら隣を見ると、レノは気持ちよさそうに規則正しく胸を上下させて眠っている。鼻筋が綺麗だなとか、まつげが長いなとか、起きてる時にはまじまじと見られないから今のうちに見ておこう。
 今日はレノも私もオフの日。だから一日ぐーたらして過ごそうと決めたのだ。それなのに目がしっかり冴えてしまって、二度寝するのももったいないくらいだ。カーテンの隙間から入る朝日も眩しいことだし、健康的にすごしなさいと神様が啓示しているのかもしれない。
「起きるね」とレノに声をかける。もちろん返事は期待していない。レノの頬にそっと唇を押し付けてベッドから抜け出した。

 顔を洗ってスキンケアをして、洗濯機を回して、コーヒーを淹れる。一人で飲むコーヒーは寂しさを感じるけれど、お疲れのレノを起こすのも申し訳なくて我慢する。リビングのカーテンを全開にしたら朝日が眩しいことこの上なし。日焼け止めは塗っているから存分に朝日を浴びてセロトニンを生成しよう。
 お腹が空いたけれど先に朝食を済ますのもレノに悪い気がして、フルーツだけ切って食べた。せっかくの二人揃った休日だから一緒に食事もしたい。

 洗濯物を干して寝室に入ると、レノは相変わらずベッドの上で静かに眠っている。ゆっくりベッドの上に乗り上げてレノの隣に座ると、レノが寝返りを打ってこちらに顔を向けてきた。手が伸びてきてしがみつくように私の膝に触れる。抱き枕だと勘違いしているのだろうか。子どもをあやすようにレノの頭を撫でれば、閉ざされていた瞼がぴくぴく動いてゆっくりと開く。水色の澄んだ瞳がこちらを見て数度瞬くと大きな溜息をついた。

「一日ぐーたらして過ごすんじゃなかったのか」
「目が覚めちゃって」
「んー、俺はまだ寝るぞ、と」

 仰向けになって布団を胸元まで掛けなおし、レノは再び瞼を閉じる。
「起きるの待ってるね」と言い、レノの額に唇を落とした。

 風呂やシンクの掃除を終えて、疲れた体を休ませるためにレノの隣に潜り込んだ。相変わらず規則正しく胸を上下させているレノ。赤い髪に指を絡ませるとまつげが揺れた。起こしちゃったかな。

「暇なのか?」
「レノがいないとつまらない」
「なら、起きるぞー」

 と言いつつ、体を起こす気配がない。変わらず布団を被ったまま、目だけは開いている状態。

「起きないの?」
「起きるぞ、と。おはようのチューしてくれたら起きる」
「まったくもう……」

 へらへらと笑うレノの唇に自分の唇を重ねると、「おはよう」とレノが言って私の髪を梳く。「おはよう」と返すとレノはようやく体を起こした。カーテンを開いて太陽の光を部屋の中に取り込むと、レノは眩しそうに目を細める。いい天気だからぐーたらするのがもったいないくらいだ。
 二人でピザトーストをかじる朝食は、一日の始まりの合図。今日はどんな楽しい日になるだろうか。





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オフの日にまったりする二人を書きたかったのでした。

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