[ なにも乗っかってないお皿 ]





体が重いし頭もすっきりしない。何もしたくない、食べたくないし、寝るのもしんどい。どろどろに溶けてなくなりたい。ソファに体を沈めて見もしないテレビを付けっぱなしでぐったりしていた。インターホンが来客を知らせても応対する気力がなく、モニタに赤が映ったことを確認して無視する。放っておいてもレノさんなら合鍵で勝手にあがってくるだろう。
しばらくすると玄関の方から「居留守かよ、と」レノさんの声が聞こえた。はい、仰る通り居留守です。

「具合でも悪いのか?」
「何もしたくないの」
「疲れてるだけだろ」

レノさんの手が私の両肩の上にのり、左右にさすった後は思いきり力をこめて掴んでくる。あまりの痛さに奇声を発してしまった。レノさんは加減と言うものを知らないのか。

「痛いです、レノさん! 肩を揉むならもっと優しくしてください」
「はいはい、わかったぞ、と」

ほどほどの力で揉まれると気持ちいい。自覚はなかったがそれほどに肩が凝っていたのか。少しずつ肩がほぐれて、がちがちに固まっていた心までもゆるりとほぐれていく感覚に心地よさを感じた。どろどろに溶けてなくなりそうだ。

に溶けていなくなられたら俺がこまるぞ、と」
「それくらい気持ちいいってことです〜」
「そりゃよかったな」
「ありがとうございます〜」

テレビの画面に視線は投げたまま、ソファに沈む体は起こしてレノさんの好きにさせている。肩を揉むのに飽きたのか、肩をさすったり頭を撫でたり髪に指を絡めたり、レノさんの指が私の素肌に触れるとくすぐったくて笑ってしまう。その体温が心地よくて、レノさんとのほんの少しの触れあいだけで世界が変わる。

私に足りていなかったのは食事でも睡眠でも休息でもなくて、レノさんと過ごす時間なのかもしれない。

じれったくなってレノさんに抱き着いた。全身でレノさんの体温を受けとめると、心まで温まって自身の体温も少し上がったように感じる。子どもをあやすような手つきでレノさんは私の背を撫でる。

「お疲れさん」
「はい、レノさんも一日お疲れ様でした」
「まだ今日は終わってないぞ、と。これからと晩飯食いに行くミッションが残ってるからな」
「あんまり食欲ないんですけど……もう少し後でもいいですか?」
「腹減るまで待つぞ、と」
「いつもありがとうございます」

急に心身ともに全快することはないけれど、少しずつ何かができるようになればいいと思う。今日はご飯をしっかり食べよう。レノさんと美味しいご飯を食べて元気になるんだ。
お腹が空くまで、このままレノさんの胸に顔をあてて心音を聞きながらぬくもりに包まれよう。なんて幸せな時間なのだろう。忘れていた大切なことを思い出しながら瞼を閉じた。




タイトルは「OTOGIUNION」様からお借りしました。

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自分では気づかなくて周りに指摘されて気づくことがたくさんあって、人のぬくもりってとても大切だなと思います。 現状、参っている私のささやかな元気になりたい願望が詰め込まれた話になりました。
元気になりたいです。

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