[ ミイラ男とオクトーバー ]





 任務で疲れた体を癒すには甘いものを食べるのがいい。任務の帰りにマーケットでかぼちゃプリンを二つ買う。レノさんはブラックコーヒーがいいかな。ぽんぽんと買い物かごの中に放り込み、かぼちゃプリンの上の生クリームのトッピングにとろける幸せを味わいたくてうずうずする。ハロウィーン気分を少しでも味わいたい。タークスらしくないと言われそうだが、長期出張でイリーナがいない中、私がやらなきゃ誰がやるというのだ。
 かぼちゃのモチーフがついたヘアピンを露店で見つけて一つ買う。誰か私の髪に差したヘアピンに気付くだろうか。イリーナならば気づくだろうが、恋人であるレノさんはきっと気づかない。
 神羅ビルの正面エントランスから堂々と戻ったが、タークスの事務所には誰もいない。冷蔵庫にプリンと缶コーヒーをしまって給湯室に向かうと、馴染みの事務員が流行りの歌を口ずさみながら紅茶を淹れていた。

「お疲れ様です。残業ですか?」
「遅くまでお疲れ様です。私は明日休みなので持ち越さないように片づけてから帰ります。それよりさんは病院に行かなくてよいのですか?」
「え? 別にケガしてないですよ」
「レノさんが大ケガで病院に運ばれたと聞きましたよ。目撃したわけではありませんが……」

 頭を鈍器で殴られたようにがくんと横に倒れそうになる。聞いていないし、自分には連絡が来ていない。携帯電話をズボンのポケットから出せば電池切れだった。どうりで連絡が来ないわけだ。慌てて事務所に持って予備のバッテリーにつけかえて上司に連絡を取れば、命に別状はないということで胸を撫でおろす。冷蔵庫に入れたかぼちゃプリンとコーヒーを鞄に詰め込んで病院まで駆けた。
 教えてもらった病室に飛び込むと見舞客は一人もおらず、ベッドの上に一人横たわるレノさん。腕は包帯でぐるぐるに巻かれ、顔も包帯で半分隠れている。

「レノさん、大丈夫ですか?」
「トリックオアトリート」
「は?」
「ミイラ男の仮装だぞ、と」
「ただのけが人です」
「そういうなよ、。お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、と」

 どんなに大ケガをしても、体が痛くても、私に心配かけまいとレノさんは気丈にふるまっている。かぼちゃプリンと缶コーヒーをサイドテーブルの上に置くと、レノさんが私の頭に手を伸ばす。ゆっくり撫でられて堪えていた涙が溢れてくる。

「生きてて、よかった……」
「心配するな、すぐに退院する。俺もハロウィーンで浮かれたかったぞ、と。こんなかわいいかぼちゃまで髪につけてる女ほったらかしにしないでな」
「気づいたの?」

 人差し指でつんつんとかぼちゃのヘアピンをつつくレノさんは子どもがおもちゃで遊ぶかのように楽しそうだ。気づいてくれたんだ。私が泣き疲れて眠るまでレノさんは頭を撫でてくれた。









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けがして包帯を巻いたらミイラ男になるなと思って書いただけ。
ハッピーハロウィーン。


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