[ 紙ヒコーキ未来へ飛んでいけ ]





 筆記試験だけであれば主席卒業確定だというのに、実技に関しては下から数えた方が圧倒的に早い凸凹な私は、当然実技が赤点で追試を受けてようやく卒業できた。やれやれと思ったのも束の間、神羅カンパニーの入社試験にまったく合格できない。タークスの養成所に通えば合格確実じゃないの? やっぱり実技ができないとタークスには入れないの?
 面接で必ず言われる「実技がもう少しできればね」の一言が胸に突き刺さり、ハンマーで頭を上から殴られたかのような衝撃に耐えられず退室してすぐにうずくまってしまう。就職浪人をしてでもタークスで働きたい、何度神羅カンパニーのから採用試験不合格の通知を受け取ればいいのだろう。
 不合格の通知書を紙飛行機にしてベランダから飛ばす。水平線に向かって一直線のはずが、真っ逆さまに落ちていき通りすがりの人の頭に突き刺さる。赤毛の中から紙飛行機を取り、レノさんは広げて内容を確認する。そのまま捨て置いてくれればよかったのに、持ち主を探すかのように辺りを見渡し、ニヤリを不敵な笑みを浮かべてこちらを見上げる。
 
「あんたか、神羅カンパニーの不合格通知を紙飛行機にして飛ばした不届き者は」
「申し訳ありませんっ!! 悪気はなかったんです!!」
「まさかタークスの頭に突き刺さるとは思ってないよなぁ、ちゃん?」

 しっかり通知書に書かれた名前を見られている。これでは人事部に告げ口されて、来年の採用試験は書類審査で落とされてしまう。空慌てて部屋を飛び出しマンションのエントランスからレノさんを捜すが見当たらない。折り目の入った紙切れだけが地面に落ちていて拾い上げた。紙飛行機にした不合格の通知書をレノさんは持って帰らなかった。早々に不合格通知書はシュレッダーにかけて流しそうめんのごとく切り裂いて燃えるゴミとまとめて捨てた。

 一か月後、アルバイトの帰りに郵便受けを見ると神羅カンパニーのロゴが入った封筒が投函されている。ようやくタークスが私を処分するために動き出したのだ。見たくない、こんな封筒の中身は確認したくない。封筒の端をつまんで部屋に入るなり、玄関の鍵をかけてリビングにおいたカッターで封筒を開く。封筒を手に取った時から違和感は感じていた。紙切れ一枚が入っている厚みではなかったのだ。
 神羅カンパニーの全部門の社員募集要項が事細かに記述された手製のパンフレット。臨時で社員を募集するビラ。これは私への勧誘活動だろうか。見ている人は見てくれているのだ。私への最大級の励ましのメッセージを抱きしめ、ベッドにダイブする。アルバイトで疲れ、バイト仲間と飲み会でよく食べよく飲んだ後だ。今夜はぐっすり眠れそうだ。
 翌朝、パンフレットに目を通した。タークス以外にも複数の部、課があり、それぞれが世界のためを思って仕事をしている。私はタークスにしか目がいかなかった。実技ができなくたって私にできそうな仕事はたくさんある。タークスにこだわらなくても、タークスと同じ会社で働くことはできる。いつか実力が伴ったら、タークスに異動できるかもしれない。
 臨時採用のビラを見ると、募集締め切りまであと三日。あいにく履歴書は切らしているので、アルバイトの前に買いに行こう。洗濯物を干そうとベランダへ出ると、室外機の上に紙飛行機が載っている。広げるとそれは履歴書。喉から手が出るほどほしいものだけれど折り目が入っては使えない。アイロンをかけて折り目を伸ばそうかと貧乏根性な思考を巡らせていると、下から調子のいい声で名前を呼ばれた。

「おーい、
「うげっ、レノさん」
「うげってなんだ? いいのかぁ、親切に履歴書を持ってきたレノさんにそんなこと言って」
「折り目がついたら使えません」
「それはコピー。本物はこっち」

 レノさんは袋に入った履歴書を振ってアピールする。もしかして、昨日郵便受けに神羅カンパニーの封筒を入れたのはレノさんだろうか。パンフレットは手折りしたようでところどころずれており、ホッチキスもまっすぐではなく斜めになっていた。どうしてこんなに親切にしてくれるのだろう。

「毎年、毎年、不合格になっても定期採用試験を受ける奇特な奴の顔を見に来ただけだぞ、と」
「はぁ……」
「郵便受けに入れとくぞ、と。じゃあな、正社員になったと神羅ビルで会える日を楽しみにしてる」
「ありがとう、ございます」

 今度こそ受かるぞ!
 意気込んでマンションのエントランスにある郵便受けから履歴書を受け取る。紙が入っているだけの袋なのに手には布のような柔らかな感触がするのはなぜだろう。袋の裏側にはお守りが入っていた。「入学祈願」と書かれたそれは本当に効果があるのか疑問だが、ないよりはマシだ。受かってレノさんにお礼を言おう。それが今の目標。









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リクエストありがとうございます。「就活生の主人公とレノ」の話でした。
お祈りメールばかり見て気が滅入ることもありましたが、なんとか内定をもらい今に至ります。

就職浪人なんてやめてよ、って言われそうですね。すみません。ただタークスになんとしても入りたい一心で貫き通したかっただけです。

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