[ チョコの欠片みたいにかき集めてよ ]





 リフレッシュルームの売店でワッフルとミルクティーを注文し、薄暗い隅っこの席に腰掛けて大きな溜息をつく。残業続きで昼食以外はまともに取れていない。今日の夜食もこのワッフルで終わりだろう。たまにはゆっくり美味しいものを食べて、お風呂にしっかりつかって、ぐっすり眠りたい。
 納期前で繁忙な部署だから、助けを呼ぼうにも誰も手が空いていない。なんとか休日出勤は回避したい。それならば今日頑張るしかない。ワッフル、二つ買えばよかったな。ワッフルじゃなくてサンドウィッチの方がよかったか。甘いものもたくさん食べたい。
 パソコンに向かいっぱなしで疲れた目を休めるために目を閉じた。ヒーリングミュージックでも聞きたいところだ。そんなことをしたら熟睡してしまいそうだけれど。
 代わりに耳元で聞こえたのは「お疲れさん」という甘く聞きなれた声。吐息交じりで色っぽくて鳥肌が立つ。

「レノさん……」
「繁忙期だよな。ほら、差し入れ。ワッフル一個じゃ足りないだろ」
「ありがとう、ございます」

 チョコチップマフィンがぽんと掌に載せられた。イリーナさんの手作りらしい。「イリーナが作ったもんなんて食えるかよ、と」と言いつつ、自分の分はきちんと完食して私の分をもらってきたようだ。チョコチップをかじるとカキっと乾いた音がする。
 レノさんと話すのも久しぶりだ。私の席に監視カメラでもついているかのように、リフレッシュルームに来れば彼は必ず会いに来てくれる。休みが重なれば必ず食事に出かける。それ以上は何もない。
 交際しているわけではない。お互いに「好き」と口にしたわけでもない。ならばどうして一緒にいるのだろう。彼が私の相手をする理由は何だろう。この関係に名前をつけるならば、彼は何と言うのだろうか。
 同じ会社の先輩と後輩、部署は違えどそれは紛れもない事実。友人、にしては距離が近すぎることが多い。友人の耳元で囁くことなんてない。恋人、それはない。私達は男女の交際はしていないから。兄妹、少し近いかもしれない。

「レノさんは休憩中ですか?」
「んー、これから出動。社長に呼ばれてるから、その前にちょっと寄ってみたらがいたぞ、と」
「そうですか」
「次の休みの日、飯食いに行こうぜ。全然食ってないだろ? ちょっとやつれたんじゃないか?」

 レノさんの指が私の頬にくるくると円を描きながら、顔を近づけてくる。やはりスキンシップが過剰だ。周りの視線を感じて居心地が悪い。あらぬ噂に日々怯えている。
 タークスに色目を使い、遊ぶ金欲しさに汚れ仕事で高級とりのタークスから金を巻き上げている。タークス経由で社長に優遇してもらっている。しがない神羅カンパニーの一般社員がそんなことできるわけがない。

「レノさん、誤解されるんでやめてもらえませんか」
「は?」
「スキンシップが過剰です。近いです」

 手で顔をガードすると、あっさり両腕の自由をレノさんに奪われてしまう。小さな溜息と共に、レノさんは辺りを見回して声を張り上げた。

に手ぇ出したらタダじゃおかないぞ」
「ひぃ、レノさん……手首痛いです」
「悪い。力んじまったぞ、と」

 レノさんは手を離すと同時に赤くなって手首をそっと撫でた。ざらっとした指先、私よりも高い体温から優しさが伝わってくる。
 呆けていると額をつんと小突かれ、レノさんは口角を上げた。まるで妹をかわいがる兄のように。そう思っているのは私だけで、レノさんは、

「もっと近づきたいんだけどな。どこかの誰かさんが鈍感で困るぞ、と」

 ひらひらと手を振ってレノさんはリフレッシュルームから出て行った。残された私は一体どうしたらいいのだろうか。自惚れてもいい?




* * * * * * * * * *

FF7Rのリフレッシュルーム見て思いついた話。
でもさ、タークスB3階なんでしょ? リフレッシュルーム64階だっけ? 遠くない?

inserted by FC2 system