[ プリーズ、キスミー ]
ダンダンダンと部屋の扉を激しくノックされた。
こんな時間に俺の部屋へ来るのは誰だ???
夜中の0時。
レンタルしていたDVDを見終えてシャワーを浴びた俺は、玄関の前に立ち右手にロッドを掴む。
「レノせんぱあーい。開けてー」と間の抜けた声がして、再び激しく扉を叩かれる。
この声、か?
鍵をはずして扉を開ける。
少し目が虚ろなが扉の前に立っていた。
タークスのスーツ姿で深夜に何のようだ?
「こんな時間に何してるんだ?」
「夜這いですー」
「はぁ???」
はそう言うと俺を押しのけて玄関に入り、扉を閉めて鍵をかけた。
少し首をかしげて考えた後、俺の首に腕を伸ばして絡めてくる。
引き剥がそうとして、もしかしてこれはおいしいポジションかもと思った瞬間、は俺に噛み付くようなキスをして床に崩れ落ちた。
との初めてのキス。
どうも酒臭い。酔っ払い・・・か。
俺はの身体を揺すって起こそうとしたが、全く起きる気配を見せない。
仕方がないから、を抱き上げてベッドに寝かした。
すーすー小さな寝息をたてて眠るを確認して、俺は仕方なくソファの上に寝転がる。
誰だ、がここまで酔っ払う程飲ませたのは。
誰だ、を一人にして帰らせたのは。
わからない相手に嫉妬する。
酔っ払いでも好きな相手からキスされて嬉しくないわけがない。
けれど、この後、目覚めてが困った顔をするのは見たくない。
参ったな・・・明日は朝から任務だってのに。
は、明日休みだからいいものの。
洗ったばかりの頭を掻いて、ため息をひとつ吐いて俺は眠った。
目覚まし時計は騒音だ。
時計のスイッチを押してベルを止める。
朝食を摂り、身支度を整える。
ふと思い出してベッドルームを覗くと、はまだ眠ったままだった。
気持ちよさそうに眠っている。
仕方がないので、メモを残して任務に出た。
二日酔いならこの薬を飲めよ、と。
神羅カンパニーの調査課へ行けば、青白い顔をしたイリーナが迎えてくれた。
珍しくルーファウス社長までいる。
「社長がタークスにいるなんて珍しいぞ、と」
「イリーナがこうだからな」
「もしかして・・・イリーナも二日酔い?」
「うー、気持ち悪いっス、レノ先輩。社長に飲まされました」
もしかして、も社長に飲まされたのか?
俺は頭を抱えて項垂れた。
「その様子だと、はレノのところへ行ったようだな」と知ったような顔をして社長が言う。
ぎょっとして社長を見れば、鼻で笑って「イリーナ休みをとらせてやれ」と言って去っていった。
たまたま重要な任務がないからよいものの、タークスが二人そろって二日酔いとは何事だ?
社長の狙いは何だ?
ルードが出勤してから二人で任務に就き、夕方6時には無事帰社できた。
が心配で、ダッシュして部屋に戻った。
扉を開いて部屋に入った。
散らかっていた部屋が片付いている。
ベランダには洗濯物が干してある。
ここは俺の部屋か?別の人の部屋か?
キョロキョロ見渡していると、ベッドルームからが現れた。
「あ、レノ先輩、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
「あの、ほんとゴメンナサイ」
は深々と頭を下げて俺に謝る。
顔が真っ青だ。
謝られるようなことは、何一つしていない。
は何に対して謝っている?
「昨日の記憶がないんです。何かやらかしませんでした、私?」
怯えた目で俺を見て尋ねる。
俺は首を左右に振って否定した。
「部屋に入ってすぐ床に崩れ落ちたぞ、と」
「ほんとですか?何もしてません?本当に申し訳ありません。お詫びに、洗濯物の山とか片付けておきました。
あ、あと、ご飯作ったんですけど、お腹空いてませんか?」
「え、飯作ってくれた?の手料理、嬉しいぞ、と」
少し頬を赤く染める。
ミートソースのパスタと海鮮サラダがテーブルの上に並べられていた。
ソファに二人並んで腰掛け、それを食す。
と二人きりは初めてだ。
任務で二人きりになることもなく、事務所で二人きりになることもなく、いつも誰かが一緒だった。
「ん、うまいぞ、」と声を掛けたら、はどこか遠くを見て手を止めていた。
俺の言葉に気付いて、顔をこちらに向けて一瞬遅れて小さく微笑む。
「ほんと、ごめんなさい。二日酔いになって、薬と朝ごはんまでいただいてしまって」
声のトーンが低い。
社長から聞いたことを話せば、は顔を真っ赤にして慌てる。
「あ、わ、社長に会ったんですか?わー、スミマセン、社長何か言ってませんでした?」
「いや、何も」
「社長とイリーナにガンガン飲まされて、酔っ払って飛び出しちゃったんですよね・・・。
その後の記憶がさっぱりなくて、どうやってレノ先輩のところまで来たのかも覚えてなくて」
「よく酔っ払って無事だったな、と」
「本当にそうですよね。車に轢かれたりしなくてよかった」
パスタをフォークに絡めては口に運ぶ。
その仕草に惹かれる。
このまま、ずっと俺の傍にいてくれたらいいのに。
一緒に暮らしてくれればいいのに。
一度も二人で任務に就くことがないのは、誰かの策略か?
俺がのことを好きだっていうことは、周知の事実なのか?
食事を終えて俺は空になった食器をシンクに運ぼうとした。
けれど、に止められる。
押しかけたお詫びにと、片づけまでやってくれた。
俺はに何かやってあげたか?
ベッドに運んだだけ。
薬と水、朝ごはんのパンを用意しただけ。
何もしていない。たいしたことはしていない。
片づけを終えたは帰ると言い出す。
帰したくない。
離したくない。
離れたくない。
「なぁ、押しかけた侘びをしてくれるなら、ひとつお願いがあるんだけど」
「え、なんですか?できることならなんでもします!」
「動くなよ、と」そう言って俺はとの距離を縮める。
至近距離に、息がかかるくらいの距離に近づく。
明らかにの瞳は動揺の色を見せている。
「昨日、『夜這いです』って言って俺にキスしたのはどこの誰だったかなぁ」と言えば、は顔をゆでだこのように赤く染める。
言葉を紡げなくて口をパクパクさせているもかわいらしい。
「お返しに、キスさせて」の返事を聞かずに、俺はに口付けた。
唇を離して、の身体を抱きしめる。
俺の胸に顔を埋めて、腕を俺の身体に回して、一生懸命声を振り絞る。
好きな人から『好き』って言ってもらえる幸せ、わかるか?
幸せすぎて溶けそうだ。
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一緒の任務にならないのは、ルーファウス社長の策略で…
3人で飲みに行ったのは、「じれったいぞ、と」と社長が思ってたから。
全部、社長の掌の上で転がされていたっていう、裏話。