[ 世界はそれを…… ]





朝、目覚めて顔を洗い、スキンケアをしてから食パンの袋を手に取る。
最後の一枚をトースターに入れて袋の消費期限を見ると、日付は今日の日付を指していて気づく。
私の誕生日だ。
そんなことも忘れるくらい忙しい日々だった。

テレビを見ながらトーストを食べ、急いで神羅ビルのタークス事務所に向かう。
特にすることもないから休暇は取らなかった。
仕事をしてスパッと終わる誕生日があってもいいじゃない。そう思う。
イリーナは私が休暇を取らないことに文句を垂れていたけれど。

今日は特に任務もなく、ソルジャーと一緒に訓練をして汗を流した。
シャワーを浴び、帰宅しようとしたらレノに呼び止められた。


「帰るのか、と」
「うん、今日の仕事は終わったから」
「飯、食いに行かないか」
「あ、うん、いいよ」
「すぐ準備するから、外で待っててくれよ、と」


レノと飲みに行くことは多い。
たいていイリーナやルードも一緒だけれど、今日は二人とも任務で不在だったから二人きりだ。
そういえば、この前、レノとキスしたな。あれは事故だった。忘れろって言われても、忘れられるものじゃない。

行きつけのバーでカクテルを注文する。
「今日もお疲れ様」と言えば、レノは「、誕生日おめでとう」と返した。


「どうして知ってるの」
「朝、イリーナが言ってたからな。誕生日なのに休みも取らずに働いてる、と」
「そう」


誰かと誕生日を一緒に過ごすのも悪くはない。
つまみのチーズを口の中で転がすのは楽しかった。
ゆっくりカクテルを飲むのも久しぶりだ。
レノと話すのは、毎日のこと。でも、今は、特別な空気がした。


「誕生日なのに働いて、夜も予定なしで寂しい奴だぞ、と」
「悪かったね」
「俺にとってはその方が都合がいいぞ、と」
「どうして」
「そりゃ、好きな女が誕生日に予定があると言えば、男がいるんじゃないかって思うのが普通だろ」
「で?」
「で? って。察しろよ」
「やだ」


真顔で言えば、レノは笑った。
つられて私も笑う。
笑ったのは久しぶりのような気がした。
任務で張り詰めた日々を、長い間過ごしていた。
今、全部吐き出してリラックスできている気がする。


「俺は、が好きだぞ、と」
「ん」
「で、は、好きな奴いるのか、と」
「知らないの?」
「はぁ?」
「いるわけないじゃない。誕生日に休みも取らないで仕事してるんだよ。タークスならそれくらい察しなさいよ」
「察せるわけないだろ。片想いに冷静な対応は不可能だぞ、と」
「レノらしくないね」


嫌いじゃない。仲間としては好き。けれど、恋心はない、と思う。
レノと一緒にいて居心地はいいし、悪い気はしない。
ずっと一緒にいたら、そのうち好きになることもあるかもしれない。


「無理して何か言おうとしなくていいぞ、と。が俺に惚れていないのはわかってる。
 今まで通りでいい。普通に任務して、たまに飯食ってさ」
「それでいいの?」
「いいぞ、と。すぐに次行くわけじゃないし、当分以外の誰かに惚れる気もしないし」
「私と付き合ってみる?」
「おいおい、冗談よせよ、と」
「本気だよ。レノと付き合ったら、世界が変わる気がする。単調な日常から脱出できる気がする」
「俺、いいように使われてる?」
「うん」


笑顔で伝えると、レノは呆れていた。
きっとレノとは友達の延長で仲良くなれる気がする。
店を出て家の近所まで送ってくれたレノの頬に軽くキスをした。


「今日はありがと。おやすみ」
「お、おい、
「なぁに?」
「お、おやすみ。また明日だぞ、と」
「うん、また明日」


今日はいい誕生日だった。
明日もきっといい日になる気がする。




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前にも書いたことがあるかもしれない。
食パンの消費期限で誕生日に気づいたのは実話。

タイトルは某バンドの曲名の前半。
後半にこの話の意味をこめました。しっくりくるな、と思ったので。
今年はこのバンドで年越しするかなー。

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