[ 優しさ半分、残りは欲求 ]
の任務は完了した。
今回は無事に、とはいかなかった。
鈍器で殴られた跡、刃物で切られた跡、銃弾がかすった跡、身体中についている。
ヘリは別の負傷者を乗せて先に神羅カンパニーへ帰還。
そして運悪く、神羅兵と共に乗り込んだジープはパンクして身動きが取れなくなった。
負傷しているが故に一刻も早くタークスの事務所に戻りたかった。
さらに運が悪いことに、携帯の電池が切れた。
神羅カンパニーまで5キロ以上あるだろう。
はひとり、痛む身体を引きずってミッドガルを目指した。
「こんなときにレノがいてくれたら」はそう思ったけれど、レノは別の任務で出払っている。
タークスから今回の任務に参加したのはのみ。
パンクしたジープは敵に襲われ、負傷していたは逃がしてもらい今に至る。
1時間ほど歩いただろうか。
薄暗いミッドガルに戻ってきたは、ほっとしていた。
それも束の間、殺気を感じて身構えようとしたが遅かった。
喫茶店から出てきた女に水をかけられる。
店の前の水まきではない。
意図的に、を狙ってバケツの水をかけた。
真冬に水をかぶって、無事でいられるだろうか。否。
「あんたなんかいなければ、あたしはレノと幸せになれたのにっ!」
女の怒声が聞こえた。女は空になったバケツをに投げつけた。
バケツはの腕に当たり、地面を転がった。
は無言で謝罪の意味を込めて頭を下げてその場を立ち去った。
今日は運が悪いのだ、そう言い聞かせて。
傷口に水がしみる。
はぐっと痛みに歯を食いしばって歩いた。
神羅カンパニーの目の前、馴染みの受付嬢たちが定時帰社していた。
に気付いて駆け寄る。
は馴染みの顔を見たことに安心し、その場に倒れた。
次にが意識を取り戻して見たものは、医務室の天井だった。
頭が割れそうに痛い。そして重い。
「やっと気がついたのか、と」レノの声が医務室に響く。
ベッドの上で休んでいたの側には、レノだけがいた。
レノはの頬に手を伸ばす。
「丁度任務終わってエレベーターに乗ろうとしたら、受付嬢が血相変えてな。
が倒れてるっていうから慌てて飛び出して、医務室まで運んだけど・・・」
「負傷してるわ、濡れてるわ、なんなんだ?って思ったのね」
「しかもひとりで戻ってくるし。どうなってんだ?」
「いろいろ事情があるのよ」
真冬に冷や水を被って風邪を引いたのだろう。
はいつもの半分以下の回転で記憶を辿ってレノに説明する。
任務のこと、ヘリのこと、ジープのこと、水をかけられたこと。
最後の話を聞いて、レノの顔から血の気が引いた。
自分の蒔いた種のせいで、愛しい人をこの状態に追いやったのだから。
「ごめん」レノの謝罪の言葉に、は目を閉じた。
「レノが浮気してるのは知ってたよ。何度も、浮気相手の女から、物投げられたよ。
生ゴミとか、生ゴミとか、な、ま、ゴ、ミ、とか」
「ほんっとーに、スンマセン」
「どんなに浮気しても、最終的に私のところに戻ってくるんだなって思った。私、プラス思考だから」
「うん、俺にはしかないぞ、と」
「うん、私にもレノしかないぞ、と」
はレノの真似をする。
二人の笑い声が響いた。
「失礼します」とイリーナの声がして、イリーナが二人の側に寄ってきた。
トレイにお粥を載せている。
病に倒れたときは、口から栄養を摂るのがいちばんだ。
「熱いから気をつけてくださいね」と言いながら、イリーナはレノにトレイを渡して医務室から去っていった。
レノはスプーンにお粥を少しすくい、ふーっと自分の息を吹きかけて少し冷ます。
そして、を見てスプーンをの口元へ運ぶ。
は口を開けて、スプーンのお粥を摂取する。
「あっつ」は口をもごもご動かして熱を冷まそうとする。
それを見たレノは湯気をあげているお椀の中のお粥に向かって息をふーふー吹きかける。
しばらく考え込んだ後、お粥を自分の口に運ぶのだ。
「あんたが食べてどうすんのよ!」とふくれっ面を見せる。
お粥を口に含んだままのレノは、そのままに口付けてお粥を流し込む。
「んー、んーっ」声に鳴らない叫びをは発した。
「こうしたらちょうどいい温度になるぞ、と」
「ば、ばかっ、風邪うつるよ」
「移せばいいぞ、と。元々俺が悪いんだから」
「そうね」
開き直ったレノを突き放すようには言った。
「でも、移したらレノがしんどくなるから、風邪引きは私だけでいいよ」
の微笑みに、レノの心臓は高鳴る。
何度も浮気を繰り返し、そして女を付き放つたびに、は傷つけられていた。
それに全く気付かなかったのは、レノが鈍感なのではなくが隠してきただけのこと。
「しゃーねーな。の風邪、吸い取ってやるぞ、と」
ニヤリと笑ってレノはに顔を近づける。
「やだ、ちょ、も、早くお粥食べさせてよ」と慌てふためくを無視して、レノは再びに口付けた。
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ヒロインさんが風邪ひいて看病するレノ、の構図が思いついただけ。