[ 元気になるおまじない ]





早朝から任務でミッドガルを離れていた。
ランチを済ませて神羅ビルの事務所へ戻ると、重苦しい空気が流れていた。
イリーナは病み上がりでマスクをつけ咳き込み、ルードは捻った左手首に包帯を巻いている。
ツォンさんは会議でいないけれど、レノの姿が見えない。
ホワイトボードのレノの札は帰宅の列に置かれたまま。
ボードを眺めたままの私に気づき、イリーナが椅子を回してこちらを向く。


「レノ先輩なら、具合悪くて休みですよー」
「レノが? サボりじゃないの?」
「それなら出社してふらっとどこかに行くんじゃないですかねー」


イリーナの言う通りだった。
でも、レノが体調不良ということが信じられない。
雨にぬれようが、どんな怪我を負おうが、入院と休暇以外で休むことはなかった。


「見舞いにでも行った方がいいのかしら」
「でしょうね。さんとデートする時間がないーって叫んでましたからね、昨日」
「そう。そっか」


早番だから午後休をとってもいいか。
少し事務仕事を片付け、レノの住まうマンションに向かう。
職業柄、家にいないことも多い。それなのに豪勢な住まいを持っている。
遊び人に見えるけれど、意外と財布の紐は固いのよね。

合鍵でオートロックの扉を開く。
エレベーターで最上階まで昇って奥の部屋を開く。
灯りは消され、人の気配もほとんどしない。
寝室の扉をノックすると弱々しい声が私の名を呼ぶ。



……いるのか、と」
「弱ってる時くらい、その口癖やめなさいよ」
「やだぞ、と」


ベッドに横たわるレノ。枕元に体温計が置かれている。熱があるのだろうか。
額に手を添えると、いつも以上に熱くてやけどでもするのではないかと思った。


「熱あるの? しんどい?」
「寒気がするし、何もしたくない」
「ご飯食べた?」
「食いたくても、用意するのがしんどい」
「冷蔵庫は空でしょ? 何か買ってくるからちょっと待ってて」


急いで近所のスーパーへ行き、インスタントの粥と飲み物、他にも空の冷蔵庫が埋まるくらいたくさん買い込む。
レノの部屋の電子レンジで粥を温める。
レノは薄味の粥をゆっくり食す。
いつもは早食いのレノも、弱っていればゆっくり食べるようだ。
普段から、ゆっくり食べればいいのに。


「早く食って、の顔見たいんだぞ、と」
「私は逃げないわよ」
「時間が惜しい」
「何の?」
「食ってる間、皿に目をやってから目を離すのが」
「ほんの数秒なのに……」
「でも、今日は、一緒にいてくれんだろ? 最近時間なかったから、デートできないのは悔しいけど、がいるとほんと落ち着くし休まる」


忙しかったから職場でしか顔を合わせていなかった。
それでもよかった。四六時中、傍にいてくれる恋人が欲しいわけではなかった。優しさを求めているわけでもなかった。
レノといると、心を開放できた。気を遣わずにいられた。それが、レノと恋人関係を続けている理由。


「午後休もらったからね。今日はレノの部屋で私もゆっくり休むわ」
「んー、掃除しといて」
「家政婦じゃないぞ、と」
「真似すんるな、と」
「ふふふ」


結局、レノの役に立ちたいという気持ちには勝てなくて、寝室以外をピカピカになるまで掃除をし、
作り置きのおかずを冷凍庫へぶちこんで、ソファに体を沈めた。
居心地の良い場所は失いたくない。だからできるときに努力する。
いつかあの手を離す日が来たとしても、それは私の責任だから仕方がないこと。
瞼を閉じれば、レノの笑顔が見えると同時に、ぱさりと何かが体にかけられた。
毛布を私の体に掛けたレノが、自室へ戻っていく。


「レノ!」
「ありがとなー。晩飯一緒に食いたいから、食う時起こしてくれよ、と」
「うん、わかった」


少し元気になったみたいで安心する。
晩ご飯一緒に食べたいとか、レノかわいすぎ!
愛玩動物を気が済むまで抱きしめたい。
毛布を引き剥がし、レノの寝室に突撃し、ベッドの上で布団にくるまるレノを抱きしめる。


「レノ、大好き!!」
「お、おい! 風邪うつるぞ、と」
「いいよ、うつっても。レノが元気になればそれでいい」
「よくない! 社長に叱られるのは俺だぞ、と」


病床のレノにベッドから落とされ、仕方なく部屋を出た。
休みをとらなかったら、きっと職場の重苦しい空気に侵されていたと思う。
レノに会って元気をもらった。
明日はこの気持ちで職場に爽やかな風を吹かせよう。
みんなも、レノも早く元気になってほしいから。




**************************************************

レノの中の人の復帰祈願、ということで。
FF7のリメイクが楽しみです。
本当に出るのだろうか。ハードはPS4だろうか。


inserted by FC2 system