[ ターン・オン・パワー ]





神羅ビルを飛び出して、駆ける、駆ける。
バイク借りればよかったか。
ストライフデリバリーサービスに運んでもらえばよかったか。
こんな時間じゃ無理だな。

日付が変わる十五分前。
調査課の事務所を警戒状態にし、警備室に退室報告を済ませ、手ぶらで大晦日の街を駆けた。
新年は一緒に迎えようって約束したのにな。
約束も守れないなんて、人間失格だ。
でも、不満そうな顔をしながらも、俺のことをわかってくれる賢い彼女だからあまり心配していない。
いつか、愛想を尽かされる気もするが・・・それまでに尻拭いするさ。

今年は、ほとんどデートできなかったな。一緒に過ごすことができなかったな。
七夕も、誕生日も、クリスマスも、大きな任務で残業ばかり。
来年は、もっとと一緒に過ごしたい。
こんな仕事をしていたら、願いは叶いそうにないけれど、止める気もないし、この方がを守れる。
職権乱用ってやつだ。

腕時計を見ると、今年も残り五分を切っていた。
間に合いそうにないな。
ポケットの携帯電話を触って気付く。
電池切れ。


「マジかよ、いつから切れてんだ? んー、思い出せないぞ、と」


最後に充電したのはいつだったか。
ポケットに入れていた予備の電池パックに取り替えて、電源を入れ直してメールを受信する。
どうでもよいメールはすっ飛ばし、の名前だけを探す。
受信日は昨日の朝。一日以上無視してしまった。
慌てて開いて後悔の嵐。


『風邪引いて熱が出たので家には来ないでね。よいお年をお迎えください!』


おい、病人を看護するのは元気な奴の役目だろ。
俺は何をやってんだ。
再び走り出す。
約束しただろ。新年は一緒に迎えようって。新年を祝う打ち上げ花火を一緒に見ようって。

の住むマンションの階段を駆け上がる。
何で三階に住んでるんだよ。ああ、俺が下層は危ないから上の方にしろって言ったんだ。
三階の廊下に出たところで、ドーンと大きな音が響く。そして、闇夜が明るく染まる。
遅かった。新年までにの元に駆けつけられなかった。

項垂れながら、の部屋の鍵を開けた。
部屋は真っ暗だった。
寝ているのだろうか。
寝室へ向かうと、床に座らされた大きなクマのぬいぐるみと、ベッドに横たわるがいた。
はぐっすり眠っていた。
規則正しく、体が上下に動いている。
額に掌を当てたら、熱を感じた。まだ、熱は下がっていないのかもしれない。
そのまま頭を撫でて、額にキスした。


「HAPPY NEW YEAR、。今年もよろしくな」
「・・・ん、あ・・・」
? 起こしちゃったか」


花火の音で目が覚めたらしい。
起きようとするの体を支えてやる。


「風邪引いてるから来ないでってメールしたはずだけど?」
「新年は一緒に迎えようって約束したぞ、と。まあ、遅刻したけど」
「眠っている間に年が変わったんだね。私、花火見たい」
「カーテン開けるぞ、と」


部屋のカーテンをさっと引くと、窓越しに色鮮やかな打ち上げ花火が見えた。
は満足そうに微笑んでいる。


「あけましておめでとう、レノ。今年もよろしくね」
「ああ、今年はもっとと一緒にいられるように努力するぞ、と」
「それ、毎年言ってるよ」
「有言実行って難しいな」
「その気持ちだけ、受け取っておくね。それでも、私はレノが好きだよ」
「俺もだ、。愛してるぞーっと」
「ちょっと、レノ! 飛びつかないで」


病人に無理はさせられないから、唇を少しだけ重ねて、そのまま布団を掛けて部屋を出た。
今年は携帯電話の電源を切らして音信普通にならないように気をつけよう。
が元気になったら、初詣で神に願うか。




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2年ぶりにまた年越しネタ。
年末年始に風邪やインフルにかかったら大変だなぁと。
携帯放置プレイで電源を切らすのは私です。。。

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