[ 十 五 夜 お 月 様 ]





今日の任務も終了。
精神が磨り減っている。
夜空には星が煌いて、このまま芝生に寝転がってそれを眺めていたいと思った。


「今日は、疲れた。頭、痛い」
「大丈夫か?」


疲れたときに、会いたいようで会いたくない人。
多分、髪が赤いからだ。
赤色は、闘志が燃えてしまう。



「うん、頭痛い、ごめん」
「大丈夫か」


肩を抱かれ、私の頭は自然とレノに寄りかかる。
片手で顔を覆った。
今は、レノの顔を見たくない。


「おい、本当に大丈夫か? 、すぐ戻ろう」
「ちょっと休めば大丈夫。だから、放っておいて」


レノから体を離す。
前へ向かって歩こうとするが、どこへ向かって歩いているのかさっぱりわからない。
ダメだな。
立ち止まって、壁に寄りかかる。


「お腹すいたな。頭、痛い。はぁ、疲れた。寝たい」
「バカ。放っておけるかよ、と。いいから大人しくしとけ」


体が宙に浮いたと思えば、レノに抱き上げられて、顔をレノの胸に埋める形になる。
人のぬくもりというものは、温かすぎて体が融けそうだ。

きゅるきゅるとお腹が鳴る。
この場面で鳴るとは恥ずかしすぎるぞ、私のお腹。


「しんどくても、腹は減るんだな」
「うん、疲れたときは・・・」
「焼き芋に限るよな」


首をかしげると、地面に下ろされる。
レノの肩に手をかけ、立ち上がると、閑散とした通りを軽トラックがこちらに向かってゆっくりと走ってくる。
「ちょっと待ってろ」と言われ、私は壁際で一人立つ。
会いたくなかったはずなのに、会うと心が揺れる、融ける。
好き、だからかな。

立っているのが辛くなって、その場にしゃがんだ。
頭を膝につけて、深呼吸する。
吐いた息が、熱い。
空を見上げたら、星はまだ煌いていた、が、それを遮る物。


「ほら」
「あ、ありがと」


タークスのスーツ姿に焼き芋は似合わないね。
苦笑しながら私は受け取った。
何か食べたかった。
頭の痛さを紛らわせたかった。

口の中に広がる甘い味。
ほっとする、なつかしい味。


「おいしい」
「よかったな。ほら、もっと食べて元気だせよ、と」
「うん」


レノは私の隣であぐらをかく。
私の肩を抱くと、空を見上げた。


「満月だな」
「あ、ほんとだ。星ばかり気にしてた」
「焼き芋で月見か。ま、それもいいか」
「お月見なんて、子供のとき以来かも」
「たまには、ゆっくりしろよ。、ここんところ働きづめだったろ?」
「そうだね。永遠に休みたい」
「永遠にとか言うなよ。もう少し、俺と遊んでくれ」
「それがいちばん疲れる」


冗談を真に受けたレノは、目を大きく開いて硬直している。
「冗談だって」と笑ってレノのわき腹を小突くと、レノは頭を抱えて溜息をついた。
普段なら真に受けるような奴ではないのに、どうしたのだろう。
レノの顔を見ると私を抱く手に力が入り、私の頭は簡単にレノに寄りかかる。

レノの側にいるのはとても久しぶりだ。
顔を見ずに声だけ聞いてぬくもりを感じていると、とても心地良い。
秋の夜長とレノと焼き芋。
幸せだな。


「ほんと、それだけで幸せ」
「は?」
「ううん、ひとりごと。そろそろ休まないと精神が崩壊して任務に失敗しそう」
「ツォンさんに休みもらうぞ、と」
「ん? レノも」
「どうせなら一緒に休もうぜ」


前線で働く精鋭たちを二人を揃って休ませてくれるだろうか。
無理だな。
私の休暇申請の受理を死守しなければ。
夜空を見上げれば、月明かりが世界を照らしていた。









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焼き芋シリーズと銘打って書いたけど、焼き芋いらなかったな、これ。
有休はみんなでかぶらないようにとらなければなりません!
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