[ LUNCHEON GIRL ]





無駄に料理がしたくて、冷蔵庫がパンパンになるくらいおかずを作った。
どれもおいしいけれど、女の私の胃袋には限界があるから、少しずつしか食べられなかった。
それならランチにしようと思い、数年ぶりに弁当箱へご飯を詰めた。
OLみたいだな。
そんなことを思いながら、今日もタークスのスーツに身を包み、神羅ビルへ向かう。
仕事はどう頑張ってもOLには程遠い。

自分で選んだ道だし、向いている職業だと思う。
けれど、一般市民でいればよかったなと思うこともある。
そういう時期なのかもね。思春期?

ランチタイムになれば神羅ビルの外へ出ることが多かった。
社員食堂で食べるのは嫌いだ。
汚れ仕事のタークスさんと一緒にいたくないらしい。

今日は弁当持ちだから神羅ビルの外へは出ない。
タークスの事務所で弁当箱を開くと、ツォンさんが弁当箱の中を覗きこんだ。



「へぇ、の今日の昼飯は弁当か。珍しい」
「えぇ、何年ぶりかわかりませんけど」
「明日、稲妻が走らなければいいな」
「ヒドイっす、ツォンさん」



社交辞令だろうが「うまそうだな」と言って、ツォンさんは事務所から出て行く。
入れ替わりにレノが事務所へ入ってきた。
弁当の匂いをかぎつけて、こちらへやってくる。



「うわっ、弁当、すご!が作ったのか?」
「すごい? 作って残ったおかずを詰め込むだけだよ」
「うまそーだぞ、と。ちょっとちょーだい!」
「ちょ、ちょっと」



レノは私の隣の席のイスに腰かけ、キャスターを転がし、私と顔がくっつきそうなくらい近づいてきた。
ふわっとフレグランスの香りが漂う。
顔をしかめてしまう。
男がいい匂いってなんだか変。
ただの嫉妬。モテない女の言い訳。



「ん?」
「何の香水つけてるのかなって」
「へぇ、俺に興味あんの?」
「レノじゃなくて、香水にね」
「へぇ、興味あるんだ? 俺が、つけてる、香水に」
「気持ち悪い目で見ないで」



舐めるようにこちらを見てきたので、顔をしかめた。
レノの横顔が遠くを見て笑っている。
何が愉快なのだろう。
急にこちらを向き、子供のような無邪気な笑顔で弁当箱を指差す。



「これ、この卵、おいしそうだぞ、と」
「ほしいの?」
「うん」
「いいよ、一切れくらい」



箸箱から箸を取り出し、スパニッシュオムレツをつまんでレノの顔の前に差し出した。
きょとんとしているレノ。
食べないの?
それなら、私が食べちゃうよ。
手を戻そうとすると、がっちり手首をつかまれた。



「待って。俺に食べさせようとしてくれたのか?」
「そうだけど? ダメだった?」
「お願いしまーす。いただきまーす」



子供みたいにかわいいなと思いつつ、口元へオムレツを運べば薄い唇が開いたパクっとオムレツを食べてしまう。
ゆっくりしっかり噛み締めている。
ただのオムレツなのに。
手抜きしたから、シリコンスチーマーに入れてレンジでチンしただけなのに。
何も言わずに、私は白いご飯を一口食べた。

ふと、思い出した。
心の片隅に隠してあったものがあることを。
レノは私のことが好きなんだっけ。
面倒だったから、忘れたふりをしていた。
好き、でもないし、嫌いでもない。
「付き合って」と言われたわけでもないから、返事のしようがない。

一年以上前の話。
レノだって、忘れて次に進んでいるのでしょ?



「今度さー、俺に弁当作ってきてよ」
「なんで? 彼女に作ってもらえばいいじゃない」
に作って欲しいんだぞ、と。の手料理が食べたい。ピクニックに行きたい」
「天気がよいならねー」



返事をしておいてぎょっとした。
ピクニックに行くことを肯定している。
「約束破ったら、針千本飲ますからな」そう言ってレノは慌しく事務所から出ていった。

ピクニックのときはどんなお弁当を作ろうか。
パソコンのインターネットブラウザを立ち上げて、すぐにレシピサイトを開いてしまった。
たまにはいいか。
お弁当を持ってのどかな地へピクニック。
一般市民みたいなこと、休日くらいすればいい。









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弁当女子は私。
シリコンスチーマーでスパニッシュオムレツを作るのは私。
すれ違ったときにふわっと香る洗剤や香水の匂いが好きなのは私。
昼休みにクッ○パッドでレシピを漁っているのは私。
よい天気すぎてピクニックに行きたい。
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