[ 王 子 様 と メ イ ド 姫 ]
ベッドから床に落ちて目が覚めた。
床に打ち付けた頭をさすって辺りを見渡す。
見覚えのある場所、けれど自分の家じゃない。
ここはどこだ?
さっきまで寝ていたのはベッドじゃない。
ソファだ。
ここはタークスの事務所。
ポケットに入れたままの携帯電話を取り出して時間を確認する。
AM 03:00
残業して眠くなったから少しだけ寝るつもりが5時間以上眠ってしまった。
ありえねぇ・・・。
真っ青な顔で休憩室から自分のデスクに戻ると、こんな時間なのに部屋の明かりがついていた。
紺色のワンピースの女が、広い草原に来たかのようにくるくるまわっていた。
女と目が合う。
「・・・何してるんだよ、と」
「あ、はは・・・ワンピースもらったから、レノがくれたパンプス履いてみたらいい感じで」
「それで回ってみた?」
「うん」
が足を出すスタイルをするなんて珍しい。
タークスのスーツはパンツスーツで、普段もパンツばかり。
それにしても、ここ最近のは昼からか夜務ばかり。何の任務してるんだ?
っつーか、誰にもらったんだ、そのワンピース。
っつーか、のかばんに入ってるこの写真と金髪のウイッグ、何だ?
金髪メイド服美女と鼻の下を伸ばしたゆでだこ親父。
に尋ねようとしたら、は俺の手から写真を奪って破る。
「だめだめだめーっ。見たらダメ」
「、何の任務してるんだ?さっきの金髪メイドはだろ?」
「違う、ちがーうっ」
の目が完全に泳いでいる。
恋人の任務にケチつけるつもりはないけれど、任務にしてはおかしすぎる。
それよりワンピースは誰からもらったんだよ、と。
渋々は話してくれた。
「今は大事な任務が少ないから、メイド居酒屋でバイトしてってツォンさん、というかルーファウス副社長に言われて。
タークスの雑務費が赤字だからそれの補填も兼ねて、かれこれ1か月以上バイトしてるの。
一緒に写真を撮った親父さんが私のことを気に入ってくれてね、数年前に病気で亡くなった娘さんのワンピースをくれたの。
ちゃんと偽名使ってるし、金髪のフルウイッグ使ってるから私に気付く人はいないよ。
メイド居酒屋はミッドガルに1件しかないから、神羅の受付嬢とかも来るけどまーったく気付かないの。」
「偽名は?」
「エ、エアリス」
「古代種じゃねーか!」
それにしても、がメイド居酒屋でバイトしてるならちょっと行ってみたいなと思った。
最近優しくなったし、女らしくなったと思ったら、バイトしてるからなんだな。
命の危険を伴う任務でないのは少し安心した。
俺の目の届かないところにが行くのは不安になる。
俺の独り言には過敏反応する。
「レノに女らしくなったって言われた・・・」と顔を赤く染め出す始末。
俺は、のかばんの中から金髪のウイッグを取り出してに渡す。
は黙ってそれを装着する。
いつものダークブラウンヘアーのはいなくて、目の前には金髪の。
紺色のワンピースにエメラルドグリーンのパンプス。
遠くから見たらには見えない。
けれど、顔も体も全部のまま。
「ドレスもガラスの靴もそろった。あとは何がいるんだぞ、と」
「え、ドレス?靴?・・・私、シンデレラ?」
「他に誰がいるんだよ」
「えっと、えー、シンデレラはかぼちゃの馬車に乗ってお城の舞踏会へ。
で、王子様と踊って0時の鐘でお城を飛び出す」
「もう0時は過ぎてるぞ、と。魔法も解けてない。お嬢さん、一曲いかがでしょうか?」
俺が手を差し出すと、は驚いているものの微笑んで俺の手に自分の手を重ねてくれる。
「喜んで」のこの言葉が合図だ。
誰もいないタークスの事務所で俺たちは踊った。
時々がステップを踏み外すけれど、慣れない靴だから仕方がない。
今度の神羅ダンスパーティーは俺たちが優勝だな。
一通り踊り終えての身体を抱きしめる。
「去年のダンパは、私がケガしてて予選落ちだったもんね」
の声のトーンはひどく低かった。
だからこそ、今年こそは予選を勝ち抜きたい。それ以上に、優勝したい。
「絶対、優勝するぞ、と」
俺の言葉には頷いてくれた。
後で監視カメラの録画映像を見たイリーナに「ここで練習しないでください!」と言われたけれど。
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パンプスをプレゼントさせて、そしたらシンデレラが思いつきました。
神羅でダンパとか、ちょっとありえないな…。