[ マイテディベア ]





「あ、ルード」
か。久しいな」
「同じ総務部なのにねー」
「課が違えばそんなものさ」



そんなものでもないよ。
総務課と調査課では、職務内容が天地の差だもの。
恋人のレノとは、会社でも会わない、休みも合わない、メールも電話もしない。
恋人と呼んでも良いのだろうか、そう思ってしまう。



「それにしても、がこんな時間までいるなんて珍しいな」
「そうね、夜の十時までいるなんて久しぶりね。先輩が入院しちゃって、その分の仕事をしてたの。…あ、レノ」
「ん?」



廊下でルードと二人で話していると、特徴的な赤毛が給湯室へ入っていくのが見えた。
なんだか疲れた表情をしているようで気になった。
ルードに、レノは疲れているのかと尋ねたけれど、はぐらかされた。
私はルードと別れて給湯室へ向かう。
疲れているから帰って寝たかった。
明日は休みだから、何も考えずに朝まで寝られる。
それでも、恋人だもの。レノのことは気になる。
気になって給湯室に顔を出すと、上半身裸のレノが冷蔵庫からフルーツ牛乳を取り出しているところだった。



「なんで裸!しかもフルーツ牛乳とか!」
「おう、か。シャワー浴びた後のフルーツ牛乳は格別なんだぞ、と」
「泊まる気?」
「休みの日以外は、だいたい泊まってる。帰ってもいないし」
「一緒に暮らしてるわけじゃないから仕方がないじゃない」
「うん、まあな」



レノは床にしゃがんでフルーツ牛乳を飲んでいる。
こんな薄暗くて狭い給湯室で飲まなくても、仮眠室に行けばいいのに。
私は黙ってレノのことを見ていた。
レノの目は虚ろだった。
こんなレノ、見たことない。初めて見るレノの姿に、胸が詰まった。

少し痩せた気がする。
目の下のクマが酷いな。
私がいるのに全然笑顔を見せてくれないし。

もう私のことは恋人だと思っていないの?
愛想がつきたってこと?
すれ違いだけで、壊れてしまう関係だったの?

胸が締め付けられて潰れそう。
思わずレノを抱きしめてしまった。
空になったフルーツ牛乳のパックが、床に転がった。



?」
「…」
「どうした?」
「なんでもない」



レノは抱きしめ返してくれることなく。
ただ、嫌がって拒否することもなく。
私の腕の中でじっとしていた。



「なんか、落ち着く」
「え?」
に抱きしめられてると、すごく、落ち着く。今日は、よく眠れそう」
「眠れないの?」
不足」
「なにそれ?」



表情は見えないけれど、レノがククッと笑って肩が揺れた。
レノの次の休みはいつなのだろう。
有休、とれるかな。
レノと一緒にいたいよ。









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弱り気味レノさん。
どうしても、シャワー浴びた後にフルーツ牛乳飲ませたかったの!

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