[ 僕 は 魔 法 使 い ]





「あ、かわいい」
俺の隣を歩くが足を止めた。
ショーケースの中のエメラルドグリーンのパンプスが気に入ったらしい。
ヒールは高め。そこだけが気に入らないのだろう。
はヒールの低い靴しか履かない。





「欲しいなぁ、でもヒール高いから歩きにくいだろうなぁ」

「ほんと、あんなのよく履いて歩けるよな」

「でもかわいいよね。レノもあーいうかわいい靴履いた可憐な女の子が好みでしょ?」

「タークスにいる時点で可憐とは程遠いぞ、と」

「たくましくて悪かったね!」





ぷいとそっぽを向く
例えばオフのときでも何が起こるかわからないから、ある程度動きやすい格好をするのがモットー。
今日も、膝下丈のパンツにニット、ブーツはぺたんこ、そんな格好の
の部屋にも俺の部屋にも服はほとんどない。
ほとんど休みなしで仕事をしているから、毎日スーツばかり着ている。

休みだからとデート。
季節の変わり目でバーゲンばかりしている店。
けれど、は変装用の衣装ばかり買っている。
領収書はたくさんたまった。
変装用に靴も買えばいいじゃねぇかと言ったけれど、自分用に欲しいらしい。
変装する仕事は稀にしかないからな。

結局数分間ショーケースにへばりついたままだったは、「行こ」と少し淋しそうな目をして言った。
俺は溜息をついての手を引き、ショーケースの裏にある積まれた箱の中からエメラルドグリーンのパンプスを探す。
の足のサイズに合うものはすぐ見つかった。
側にあった椅子にを座らせ、箱から出したパンプスを履かせる。





「何すんのよ!」

「買わないんだったら試しに履くだけ履いて、満足すれば?」

「あー、なるほど。試着して満足っていう」





は楽しそうにパンプスを履いて店内を歩いていた。
少しぎこちない歩き方なのは仕方がないけれど。
「楽しかった」と今日イチバンの笑顔で俺に言って、パンプスを元に戻す。
それでも買わないのだ。

シンデレラはガラスの靴を忘れていった。
兵士が街に、その靴が入る女を探しに行った。
がシンデレラだとしたら、俺は?
王子様じゃない。に惚れているのは事実だけれど、ガラスの靴は俺の手元にない。
まだシンデレラは舞踏会に参加していない。

だったら、俺は魔法使いだ。
魔法使いになってガラスの靴をシンデレラにあげればいい。





今日の任務は早朝から。
ルードと組んでヘリに乗り込む。
もちろん魔法使いになることも忘れない。
白い箱をのデスクの上に置いてきた。

任務を終えて調査課のフロアに戻る。
扉を開ける前にの叫び声が聞こえてきた。
慌てて中に入る。
はまた叫ぶ。





「レノっ、レノっ、これ!!!」

「動揺しすぎだぞ、と」

「だって、この前のパンプス、レノが買ってくれたの?」

「あんだけ欲しそうにしてたのに、が買わないから」





ありがとうと再び絶叫。
ツォンさんとイリーナが耳を塞いでいる。
俺は魔法使い。
シンデレラにガラスの靴をあげたんだ。

ゴホンと咳払いが聞こえ、は「ごめんなさい」とツォンさんに謝る。
は遅番で今から任務。
「今日はすぐ終われそうな気がする」とニコニコしながらは任務につくためフロアから離れた。

俺は魔法使い。
けれど、お城にいる王子様にもなるぞ、と。









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レノにパンプスをプレゼントさせたかったっていう。

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