[ お 幸 せ に ]










昨日までの任務が終わり、今日は久しぶりに神羅カンパニーの調査課のフロアで私は報告書を作成していた。
2か月続いた任務だから、任務の合間に少しずつノートパソコンに書いていたメモを頼りに記憶を引きずり出す。
ふと、斜め向かいの空の席に目をやった。
レノは、今頃任務でどこにいるのだろうか。
2か月ぶりに会えると思い少しウキウキして出勤したけれど、あいにくレノ&ルードコンビは任務で1週間前から出払っているらしい。
天井を見上げてため息をついた。
タークスに恋心は邪魔だ。

「どうかしましたか?」

さらさらと金髪を流しながら私に声を掛けるイリーナ。
首をかしげる仕草がかわいらしい。
イリーナはレノのマグカップに紅茶を淹れていた。
それを私に差し出す。
新種の嫌がらせか?
報告書を書くのに、恋心は邪魔。恋人を想ってなどいられない。
けれど、イリーナが淹れてくれた紅茶はおいしくいただいた。
飲んでいる途中で、なんだかレノの声が聞こえた。幻聴か?

1日かけて報告書を書き上げた。
時刻は夕方の7時をすぎた頃。
帰ろうかな、そう思って立ち上がると、血相を変えたイリーナがフロアに駆け込んできた。





「大変です、さん!レノ先輩が負傷したらしくて」

「え?」

「命に別状はないみたいですけれど、足を撃たれて動けないみたいです。
 ルード先輩がおぶって帰ってきたんで、医務室に向かったってツォンさんが・・・」





私は慌てて医務室に向かった。駆け出したときに座っていた椅子を倒して派手な音をたててしまった。
レノのカップで紅茶を飲んでいたときに聞こえたのは、レノが助けを呼ぶ声だったのかもしれない。
虫の知らせってこういうことなんだ。
エレベーターを使って医務室のあるフロアに向かう。
医務室の前でルードとツォンさんが話していた。
私の姿を確認して、「レノなら無事だ」とツォンさんが優しい口調で言ってくれた。
ルードは無言で扉を指す。
私はそっと扉を開いた。

真っ白な病室。
ベッドの上にレノが横たわっていた。
私に気付いて起き上がろうとするから、私は慌ててそれを止める。
「ちょっと貧血気味でな」と血の気のひいた青白い顔でレノが言う。
久々の再会がこれだ。
でもレノの顔を見てほっとした。
布団の脇からレノが手を出した。
私はその手を両手で包み込む。





「大丈夫?」

「今回は相手が悪かったぞ、と」

「誰にやられたの?」

「3歳のガキ」





レノは笑っていた。





 *





今回の任務は神羅へスパイとして入り込んで、しかも逃げやがった奴の抹殺。
今は妻と娘、家族3人で仲良く暮らしているらしい。
5日ほど張り込んで行動やらを把握。
どうやら妻と娘は実家にでも帰っているらしく、全く見かけなかった。

ルードには妻と娘を探索してもらい、実行当日に家へ近づけないよう頼んだ。
ただ時間がなくて、ルードが二人を見つけるまでに実行せざるを得なくなった。
うかつだった。
すぐ傍に戻ってきていたとは知らず。

スパイは俺が目に入った瞬間、両手を挙げて降参のポーズを見せた。
けれど俺達には「抹殺」という指令しか入ってなかった。
首を左右に振って、俺はロッドを構えた。
一撃必殺、そうもいかなかった。
スパイになるだけのことはある男だった。
床に倒れても即死ではなかった。
最期にかすれた声でこう言ったんだ。

の、こいびと、だ、な? あい、つ、を、しあわせに、して、やって、くれよ・・・」

俺は耳を疑った。
その一瞬で緊張感の糸が切れてしまった。
周りの音が耳に入らない。
気配も感じ取れない。
気付けば、右足に痛みが走った。
遅れて銃声が耳に届く。
振り返ると、小さい女の子が銃を構えていた。
その後ろで顔を真っ青にした母親らしき女と、ルードがいた。





「パ、パパになにしたの?パパをころしたの?」

「そうだな。パパを殺したのは俺だぞ、と」

のパパをころしたの?だったらもあなたをころすよ」





また耳を疑った。
何と名乗った?

それは俺の恋人の名前だろ?

「レノ!」と相棒に名前を呼ばれ我に返る。
「ルード帰るぞ、と」そう言って俺はその場を離れた。
本来なら二人も一緒に抹殺すべきだった。
けれど、できなかった。
銃を構えた少女の真剣さ、彼女の名前、その父親であるターゲットの最期の言葉。
何もかもが解せない。

右足の痛みが増してきた。
止血は完全にできなかった。
毒弾だったらしい。
ルードにおぶってもらい、気がついたら病室のベッドの上に横たわっていた。
そして、が今、俺の手を握ってくれている。





「レノ、その人は、わたしの、昔のこいびとだよ」泣きそうな顔をしている

「スパイになって入り込んでいたの」涙をこぼす

「彼、自分の偵察のついでに私に会いにきたわ。こどもにって名前をつけたって。
 自分が幸せにできなかった女がいるから、かわりに自分のこどもこそは幸せにするって誓ったって。
 死んだらこどもを幸せにできないのにね。
 最期に私の幸せ願うなんて、どんだけバカなの・・・」





は布団に顔を埋めて泣いていた。
早く泣き止んで欲しかった。
の恋人は俺なのに、どうして昔の恋人を想って泣くんだ?
の恋人は俺なのに、どうして負傷した俺を想って泣かない?
やりきれない気持ちであふれかえる。

ギリと奥歯が軋む。
ぎゅっと拳に力をこめる。
勢いよくは顔を上げた。
頬に涙の跡がついている。
目は赤い。

「レノが生きていてよかったよ。レノが幸せにしてくれなくても、私はレノがいるだけで幸せになれるから」
が俺の手を握る力を強くした。
ほんの数秒前までに不満を抱えていたのに、それが嘘だったかのように心が軽くなる。
死ねない。がいるから死ねない。
恋心は任務の邪魔になる。けれど、きっと背水の陣になったときに効力を発揮する。
を泣かせないように。
俺がいるだけでが幸せになれるのなら、俺がを幸せにしようとしたらもっとは幸せになれる。





ツォンさんは、俺とにボーナスとして1週間の休暇をくれた。









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長くなってしもた…
そこにあなたがいるだけで幸せになれる、そういう瞬間ありませんか?


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