[ わたしのマフラーをまいたあなた ]
毛先に残ったパーマが気になる。
もう少し伸びたら切るんだけどな。
新作のマスカラが気になる。
まつげは短いし、ぱっちり二重瞼じゃないから、頑張ってマスカラを塗ってもぱっとしない瞳。
なんとかならないのかな。
バーゲン中のあの店が気になる。
着心地のいいセーター売ってないかな。
新しいバッグも欲しいな。
バレンタインデーが気になる。
今年もどうせ一人なんだ。それか、女同士で集まってホームパーティーをする。
恋人のために、一生懸命お菓子を作って渡してみたいな。
そんなことを思いながら、私はミッドガルの夜道を歩く。
マフラーをしても、手袋をはめても、タイツをはいても、ニット帽をかぶっても、真冬の夜は寒い。
信号待ちの交差点で身を縮めていると、寒そうな格好の男の人と目が合った。
スーツのフロントは開け放ち、中に着ているシャツの襟元全開。
絶対寒い。見ているこちらまで寒くなる。
ただ、真っ赤な髪の毛だけは熱を帯びているように見えた。
「何だよ、俺に何か用?」
「あ・・・ご、ご、ごめんなさい。とても寒そうな格好だなぁと思いまして・・・」
「だな、あんたと比べれば薄着。実際、寒いぞ、と」
「マフラーか手袋でよければお貸ししますけれど」
「本当か?じゃあマフラー貸してほしい・・・って、あんたどっちに行くんだ?」
五番街、と答えれば、同じ方向だというので、謎の赤毛の男の人と一緒に帰ることになった。
私の手編みの黄色いマフラーは、レノさんという、この男の人の首に巻きついている。
一体何者なんだろう。
けれど、初対面の人に根掘り葉掘り質問するのも気が引けたので諦めた。
結局、おしゃべりが好きと思われるレノさんが、全部説明してくれたけれど。
「で、イリーナって女が、自分のコートがなくなったからって俺のコートを奪っていったってわけ。それで、こんな格好なんだぞ、と。
任務成功とはいえ、イリーナは自分の着ていったコートをダメにしたから、あいつは任務失敗だな。主任に怒られればいい」
「でも、レノさんならイリーナさんからコート奪い返すこともできたんでしょう?
それをしないってことは、レディに気を遣ったジェントルマンってことじゃないですか?」
レノさんは目を丸くしていた。
私の発言はおかしかったのだろうか。
初めは堪えるような笑い方をしていたのに、次第にゲラゲラ大声で笑い出すレノさん。
私が首をかしげていると、レノさんはニコっと笑ってこう言った。
「俺がジェントルマン?だったら寒そうにしているのマフラー借りたりしないぞ、と」
それもそうだ。ジェントルマンなら私の申し出を断るだろう。
じゃあ、何なのレノさん?
五番街の端、我が家が見えてきた。
「私の家、そこなんです」そういえば、レノさんの視線がぐさっと突き刺さる。
レノさんはマフラーをはずして私の首にかけてくれた。
そして、ニコっと笑って私の頭をなでる。
「のおかげでこんな格好でも寒くなくて助かったぞ、と。ありがとな。・・・また、会える?」
「生きてたら、いつでも会えますよ」
「そうだな。さぁて、バレンタインデーにから何かもらえることを楽しみにして、しばらく任務頑張るかっ」
開いた口が塞がりませんよ、レノさん。
突然何を言い出すのだろう、この人は。
「手編みのマフラーとか、いいよなぁ」レノさんはそう呟きながら暗闇の中に、身を潜めていく。
明日、毛糸、買いに行かなくちゃ!
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中学時代に作った黄色の手編みのマフラー。
大学院まで愛用していました。
多分、レノさんはミッドガルでヒロインちゃんに目をつけていたのだと思う。
(作者が断定しないって一体…)