[ 七夕だけはどうしてもあなたに ]





すべての音をかき消すように大雨が大地に降り注いでいる。
今年も期待できそうにないな、七夕に天の川を見るのは。
ゴールドソーサーのレストランの裏口で、俺は空を見上げた。
屋内レジャー施設に雨は関係ない。
けれど、激しい雨音だけは聞こえる。

早く仕事終わって出てこいよ、と。

タバコをとりだし、くわえる。ジッポの火がゆらゆら揺れる。煙を吐き出せば、落ち着いた。
「ちょっと!!!こんなところでタバコなんてやめてよね!!!…ってレノさん」
裏口から出てきた人に甲高い声で叱られた。
声の主は待ち人。
タバコは携帯吸い殻入れに吸い込ませた。
はタバコが嫌いだから。





「この後、空いてる?バーにでも行こうか」

「あ、はい。喜んでご一緒します」





なぜだろう、毎年俺は七夕にこのセリフを吐いている気がする。
なぜだろう、毎年七夕にのこのセリフを聞いている。

もう5度目だ。
俺たちが出会って5年。
と飯を食いに行く以上の関係になれないまま、5年が過ぎた。
手も握れない、肩も抱けない、キスもできない。
よくこの俺が5年も辛抱できてるよな。相棒が聞けば驚くよな。

は俺のことをどう思っているのだろう。

ゴールドソーサー内の深夜営業している行きつけのバーを訪ねた。客はあまりいない。雨の影響だろう。
カウンター席で、ウイスキーを注文する。
ちら、との様子を確認した。少し疲れているようだった。
誘わなければよかったか、と後悔した。
ただ、七夕だけはどうしてもに会いたい。
俺にとっては織姫だ。天の川をまたいで想い人に会える日。
残念ながら、が俺のことをどう思っているかは不明。

気が付けば、の目が虚ろになっていた。
目の前に空のグラスがたくさん並んでいる。
しかも、大半がウイスキーのグラスだ。
が酔っ払うなんて珍しいなと思えば、肩に力がかかってバランスを崩しそうになった。
の頭が、俺の肩に載っている。
小さい声で「レノさん、今日は疲れたのでもう帰りませんか?」と言うのだ。
無理強いはさせたくない。俺は、もっとと一緒にいたい欲を抑えつけた。

ゴールドソーサーを出て、1本の傘に二人肩を寄せ合って入る。
を家まで送る道。雨は少し小降りになっていた。
いつもなら、の家の前でお別れ。
けれど、「レノさん、ちょっと見ていただきたいものがあるんです」とに誘われ、家の中へ足を踏み入れた。

ダイニングキッチンの隅に置かれた笹。七夕かざりの余りだろうか。
何もかかれていない短冊を、は俺に差し出した。





「よければ、願い事書いてください。短冊飾りがなくて淋しいんです。
 ま、もう日付かわって七夕は終わってますけど」

「願い事か…」





何を願おうか。今、叶えたい願いはあるだろうか。
休みが欲しい、仕事で楽したい、イリーナがまともになりますように、社長の気まぐれをなんとかしてほしい…
それよりも、何よりも、がほしい。
そんなこと、書けるか?
本人を目の前にして書けるか?
でも、ま、互いに酔ってるからいいかと思い、正直に書いてみた。

とキスがしたい』と。

若干虚ろな目をしているも、短冊に願いを書いていた。
は何を願うのだろう。

「じゃあ見せっこしましょ」
と言って強引に俺の短冊を奪う。代わりに渡されたの短冊を見て目を見開いた。

『レノさんと1度でいいからキスがしたいな』

お互い顔を見合わせて爆笑する。
笑い疲れて息が切れてきた頃、ようやく俺の手がの頬に触れた。
顔を近付けそっと口付けた。の唇は、柔らかくて熱かった。

「願い、叶っちゃった」はにかみながら言う
「物足りないぞ、と」それとは正反対に俺は言う。
俺たちは何度もキスをして抱き合った。









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ものすごーく構成を練りねりネリ…こんな話になりました。
ヒロインの兄はレノたんにスカウトされてソルジャーになったとか、
そんな設定を考えてたけど全部カット。笑
いろいろ物足りないので、ヒロイン側の視点でまた書くかもしれないです。

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