[ やまとなでしこ ]





朝から慌しかった。書類整理、緊急の流魂街巡回。四番隊からの呼び出し。
疲れた体を引きずって歩いていると、死覇装姿の旅禍の女性が通りを行ったり来たりしている。
声を掛けようとしたら、引き返してきた彼女にぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか。私、石頭だから、すごく痛くないですか?」
「いいえ、こちらこそ不注意で申し訳ありません。井上織姫さんですね?」
「はい、そうですけど、どうして知ってるんですか?」
「乱菊さんから伺ってます。私、十番隊の第三席のと申します。隊舎へ帰りますので、一緒に行きましょう」
「はーい」


乱菊さんから聞いていたとおり、明るくて感じのよい人だ。
乱菊さんと意気投合したのは、体の問題なのかなと思ってしまうほどに、二人の体の豊満さは似ている。
私の貧相な体とは大違いだ。
その井上さんが、私の顔を凝視している。


「どうか、しましたか?」
さんの髪の毛、とっても綺麗。さらさら、つやつや。どういうお手入れしてるんですか?」
「特に何もしていないので生まれ持ってのものだったりするのですが、毎日健康的な生活を心がけています」
「素敵ですね。大和撫子だなぁ、うらやましい!」


世の女性はあなたの体の方がうらやましいと思いますよ。
殿方だって、きっと。
隊長は、やっぱり乱菊さんや井上さんのような体型の方が好みだろうか。
でも、私のこと好きって言ってくれているから、関係ないのかな。
考えるだけ不毛なので、頭を左右にブンブン振って雑念を振り払った。

貴賓室に井上さんを案内し、執務室にいた乱菊さんに声を掛ける。
乱菊さんは仕事を放り出して貴賓室へ向かってしまい、隊長の額に青筋が浮かぶ。


「ったく、松本のヤロー」
「まあまあ、井上さんもしばらくしたら現世に戻ってしまうでしょうし、今はいいじゃないですか」
「そうだな、昼飯にするか」
「外に食べに行くんですか?」
「いや、貴賓用の食事を用意してるから、それを隣で食べる」
「楽しそうですね」
の分もあるぞ」
「やった! ・・・給与天引きですか?」
「まあな」


隊長と目を合わせて苦笑した。
貴賓室に入るとすぐに食堂の給仕係が食事を運んできてくれた。
いつもは質素な食事だけれど、貴賓用とあって随分量も多い。
それを、ぺろりと平らげてしまう井上さんの胃袋はすごい。
今は食事を終えて歓談している。
ふと、井上さんが質問してきた。


「気になってたんですけど、女性の死神って少ないですよね? なのに、十番隊は副隊長も第三席も女性なんですね」
「性別は関係ねえよ。優秀な奴だけが上にいる」
「違うわよ、隊長の趣味よ、シュ・ミ!」
「何言ってんだ、松本! お前は俺が隊長になる前から副隊長だったろうが」
「冗談ですよー、冗談!」


隊長と乱菊さんが仲良く言い合いをしている横で、私と井上さんは目を合わせて笑った。
いいな、彼女の雰囲気。柔らかくて、温かい。
すると、乱菊さんが茶々を入れてくる。


「ちょっと、何二人で見つめ合ってるの?」
「あ、いえ、井上さんの雰囲気がとてもいいなと思いまして」
「私も、さんの雰囲気がとってもいいなって。こんなお友達が身近にいたらいいなと思ったんです」
「だめよ、を現世に連れて帰ったら。カレシが悲しんじゃうから」
「えっ、彼氏さんがいるんですか! どんな人ですか!」


井上さんは目を輝かせている。女の子はこういう話が本当に好きだな。
乱菊さんは、視線を隊長に投げかける。
隊長は眉間に皺を寄せている。


「もしかして、冬獅郎くんと付き合ってるんですか! ほほう・・・あ、そっか、そういうことだったんだ」
「なによ、織姫。何がわかったの?」
「ここに連れてきてもらったときのさんと、今のさんの雰囲気が少し違って。
 今の方が、とっても穏やかで、幸せそうで、それって隣に冬獅郎くんがいるからなんだなって思ったんです」
「成程ね」


どれくらい違うのか気になるけれど、昼休みが終わりそうなので、私は井上さんに挨拶をして貴賓室を抜ける。
隊長も私の後ろをついてきた。
二人きりだから、訊いてみるのも悪くはない。


「隊長」
「なんだ?」
「隊長は、乱菊さんや井上さんみたいな体型の人を好ましいと思いますか?」
「急に何言ってんだ?」
「やっぱり、男の人って、こう、胸が大きい女の人が好きなのかなって。私はあの二人とは比べ物になりませんから」
「ちょ、お前、何言ってんだ! 誰かに何か言われたのか?」
「井上さんは、私の髪が綺麗だと褒めてくれました。でも、普通の人は、髪の毛より胸に目がいきますよね」
「俺は、お前がいい」
「・・・」
「今のままのがいちばんいい。の全部が、俺には好ましい。じゃなくちゃ、だめだ」


真剣な表情で、自分の気持ちを伝えてくれた隊長に感謝した。
嬉しくて泣きそうだ。
顔を隠して、午後の流魂街巡回に向けて、隊舎門に向かった。




**************************************************

「天使の輪が光ってる」と元上司によく言われるので・・・
私がいない飲み会の場で力説してるってどうなの!?

女性死神って少ない割りにけっこう上の位の人、多いよね。

inserted by FC2 system