[ first bite ]





隊首会がお開きになり、隊舎へ戻ろうとすると浮竹に呼び止められ、雨乾堂に無理矢理連れてこられた。
予想はしていたが、菓子の詰め合わせを大量にもらい、前が見えない状態で隊舎まで戻る羽目になった。
運悪く執務室の前には誰もおらず、扉を開けることができない。
部屋の中からは、賑やかな声が聞こえ、三つの霊圧を感じる。
誰か、気付いてくれ。
数秒待つと、扉が開き、が顔を出す。



「隊長? お顔が見えませんが」
「ああ、悪いが半分持ってくれ」
「ええ」


は細々とした物を取っては戸棚にしまって、俺と戸棚の間を往復する。
俺も、戸棚の前に大きな詰め合わせを置き、騒がしい方へ顔を向けた。
ソファのところで松本と雛森が何かを食べているようだ。


「雛森さんとケーキ作ったんです。今日はクリスマスですから」
「ふーん」
「隊長、甘いもの好きじゃないけど、が食べさせてくれたら食べますよね!」
「クリームがすげえ甘そう」
「そんなしかめ面しないでよ、日番谷くん。さんが作ったのに食べられないっていうの?」


松本と雛森がむくれている。
俺は黙って空いているソファに腰掛けた。
は茶を淹れた湯のみを俺の前のテーブルに置き、俺の隣に座る。
はわかっている。俺がケーキを食べないから、ケーキの味に合わない茶を淹れた。


「せっかく、ケーキ食べさせてもらってる隊長のナイショ撮りができると思ったのに」
「そういうことか」
「日番谷くんの写真、人気なんだよ。女性死神協会の大事な資金源がー」
「てめえら・・・んなことに俺を使うな」
「仕方ないわね。はい、、あーん」


松本は切り分けたケーキにフォークを突き刺し、すくったケーキをの口へ運ぼうとする。
とっさに松本の腕を掴み、止まった手からフォークを奪った。


「隊長! 何するんですが。隊長がダメならに頑張ってもらわないと」
「うるせえ、黙ってろ」


ちらっと雛森を見るとカメラを構えている。
まあいいか。
黙っての口の前にフォークを差し出すと、は目をパチパチと瞬かせた。


「隊長?」
「食うのか? 食わねえのか?」
「食べます。食べます」


フォークの先に載せたケーキはの口の中へ消えていく。
「おいしい」と満足そうに微笑む
テーブルを挟んで向かい側の松本と雛森は、カメラについた液晶画面で撮ったばかりの写真を確認している。


「うまく撮れた?」
「バッチリです、乱菊さん! これで心置きなく副隊長会に行けますね」
「まずいわ雛森。もうこんな時間」
「あら、本当ですね。急ぎましょう」


大慌てで二人は執務室を出て行く。
嵐の後の静けさとはまさにこのこと。
二人の霊圧が執務室から遠ざかっていくのを確認して、腕がくっつくぐらい、の方へ体を寄せた。



「食えなくて、悪いな」
「いいえ、隊長が食べないことをわかって作りましたから」
「俺は、幸せそうに食べているの顔を見れたら十分だ」
「ありがとうございます。今度は隊長が食べられるものを作りますね」


フォークでケーキをすくい、の口まで運ぶ。
クリームが口の中にうまく収まらず、唇の端についてしまった。
の唇の端についたクリームをなめてやる。


「甘いな」
「隊長! まだ勤務中です」
「クリスマスだから、少しくらい、いいだろ」
「イベントごと、好きじゃないくせに」
「俺に食わせてもらえるとか、この先あるかわかんねえだろ。しっかり食っとけ」
「はーい」


この先、嫌になるくらい何度でも食わせてやるし、病気になった看病してやるから覚悟しとけよ。
ケーキのおいしさに表情が緩んでいるの顔を見て、俺は十分幸せだ。

、メリークリスマス。
来年も、再来年も、ずっと一緒だ。




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メリークリスマス、日番谷くん!
生クリーム大好き!
女性だけどヒロインにあーんってする乱菊さんが許せなかった日番谷くんなのでした。

ヒロインの写真も、男性死神に高額で売れますが、
雛森ちゃんが撮ったのは、後で日番谷くんに渡すためのツーショットです。

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