【わたしだけのものになって】





 こじんまりとした居酒屋の掘りごたつで熱燗を飲む。冬は熱燗に限る。向かいに座る土方さんは焼き鳥に舌鼓を打っている。トッピングに常備しているマヨネーズをかけるのは飲食店ではマナー違反ではなかろうか。とはいえ、美味しい食べ物に美味しいお酒、ありきたりなものだけれどちょっとしたご褒美だ。
 土方さんは私とお酒を飲むときは控えめだ。酔っぱらって醜態をさらすのが嫌だというのだ。ときどき隊士たちと顔を真っ赤にするまで飲んで千鳥足で屯所に帰ってくることもあるけれど、どんな姿でも土方さんが愛しい人には変わりない。

「飲みませんか?」
「あぁ、一杯もらうか」
「どうぞ」

お猪口を土方さんの前に置いてお酒を注ぐ。こうして二人で過ごす時間がとても幸せだ。お酒が入って饒舌になる土方さんの愚痴を聞いて相槌を打つのも、余った揚げ出し豆腐を私に譲ってくれるのも、今だけは土方さんのすべてが私のものになったみたいで嬉しくて仕方がない。こんなにも独占欲があったのかと自分自身に驚く。

「口の端についてるぞ」
「えっ、どこですか?」
「そこ」

 土方さんが指差すところを数回こすっても何も手の甲につかない。呆れ顔の土方さんの指先が私の口の端を滑って赤いものが取れた。ポテトフライにつけて食べたケチャップがついていたようだ。土方さんはそれを舌で舐めとって食べてしまう。

「どうした? 直接口で取った方が良かったか?」
「いえ、指で結構です」

 面白がって堪えるように笑う土方さんが楽しそうで何よりだ。
 土方さんが楽しいと思えるのならば、私も楽しい。
 永遠に続かない二人だけの時間、今だけはここにあるものすべて私のもの。
 私と同じように口の端にマヨネーズをつけている土方さんの口の端に指を伸ばす。すくったマヨネーズは私がおいしくいただいた。




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口元についたケチャップとマヨを指ですくって口に運ぶのが書きたかっただけです!

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