[ スイカ、かき氷、夏の思ひ出 ]





 ガリガリガリと何かを削る音が食堂からする。不審者が盗みにでも入ったか? 鞘に手を掛けてそっと近づくと感じ慣れた気配が食堂の中からした。ハンドルを回して何かを削っているのは料理の仕込みかもしれない。近づくとペンギンのキャラクターの頭から生えたハンドルを握ってグルグル回している。ペンギンの腹のあたりにお椀が置かれ、削られた氷がぱらぱらと粉雪のように舞い落ち積もる。
 
「かき氷か?」
「土方さんでしたか。誰かが廊下から覗いているなとは思っていたのですが」
「不審な音にしか聞こえなかったからな」
「暑いのでかき氷を用意しようと思ったのですが、氷を削るだけで汗かいちゃいました」
「交代するか」

 はうちわで仰ぎながら冷やした麦茶を飲んで休憩し、俺はペンギンのかき氷器で氷を削る。氷がなくなったところで、お椀四つ分のかき氷ができた。血とは違う赤はいちごシロップは特定の誰かを連想させる。はいちごシロップをかき氷に掛けて、二つは盆に載せて隊長室へ運んだ。来客の予定はなかったので誰が来ているのか気になりついていくと近藤さんと万事屋が縁側で桶に西瓜を入れ水を張っている。武装警察真選組が一体何をしているのだ。業務妨害でしょっぴくぞ、万事屋さんよ。

「まぁまぁトシ、落ち着けって。夏っぽいことをしてーなって話になってな」
「それで西瓜とかき氷か」
「たまには休息も必要だ。トシ、お前も西瓜食うか?」
「後でな」

 さすがにこの二人と一緒に食えば、真選組の幹部が一体何をしているのかとどやされる。食堂でと二人で食うかき氷は、趣には欠けるが静かで落ち着いた雰囲気が俺には合っている。今年は梅雨明けが遅かっただの、日照不足で野菜が高値でやりくりに困るだの、の紡ぐ言葉に相槌を打つ、それだけのことで気温が数度下がったように感じる。
 ふと、久しぶりの会話だというのに天気の話しかしていないことに気づく。俺から振るような話題もなく、も特に話すことがないのだろう。大捕り物もなく変わり映えのしない毎日、それは平和な証拠。
 食べ終わったお椀を流し台に運ぶと、総悟がふらりと食堂に現れた。腹でも減ったのかと思えば、俺を捜していたらしい。

「土方さん、刀貸してくれやせんかね」
「何するんだ?」
「近藤さんが西瓜を切るってんで、刀を探してたんでさぁ」
「てめぇので切れや!! 食堂来たんなら包丁持ってけ!!」

 すかさずが包丁を手ぬぐいで包んで持ってくる。冷ややかな目で俺を見つつ、総悟は包丁を受け取って食堂から出て行った。のこのこついていく気も起きずそのまま市中見回りへ向かう。西瓜は俺のためにが一切れ残しておくと言っていた。帰りに花火でも買って帰ろう。平和なうちに夏の思い出作りだ。









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平和なひととき。

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