[ 桜色の涙も乾きそうだ ]





見上げなくとも目に入る川沿いの桜並木。
雨に打たれて地面には桜の花びらが白い道を作っていた。
数日前に催された真選組の花見は、風邪を引いて参加できなかった。
隊士のみんなが誘ってくれたのに、申し訳ないことをした。
来年は参加してほしいと言われたけれど、来年なんてまだ先の話だ。

この雨で桜は散ってしまうだろう。
この目に焼き付けておこう。
みんなとお花見したかったな。
お弁当のおかずも相談していたのに、作ることすらできず他の女中に任せきりになってしまった。

足を止めて桜並木を眺めていると、背後に気配を感じた。
振り返ると、傘を差した土方さんが立っていた。
見廻りの途中だろうか。遠くにパトカーが止まっている。


「どうした?」
「桜が、綺麗だったので。この雨で散ってしまいますからね」
「花見、来れなかったもんな」
「えぇ。見納めです」
「なら、俺も付き合うよ。の、花見に」


土方さんは電話でパトカーにいるであろう人に、先に屯所へ戻るように伝えていた。
ただ桜を眺めているだけの花見に付き合ってもらうのが申し訳ないと思っていたが、土方さんはどこか違う場所へ行きたいようだ。
土手から下り、江戸の町へ向かって歩く。


「近くにここがよく見える店があるんだ。同じことを考えている奴がいるだろうけど、空いてるか行ってみねぇか」
「はい、ぜひ」
「雨で冷えるから、中に入った方がいい。また風邪ひかれても困るからな」
「すみません」
が謝ることじゃねぇよ。せっかくなんだ、二人でゆっくり飯でも食おう」
「はい」


川から離れた場所にあるビルの中層階にある和食料理店に連れていかれた。
ほぼ満席の店内だが、窓のある個室が空いていてそこに案内される。
桜は間近にないけれど、桃色の並木が続く川がよく見える。


「綺麗ですね。よく見えるし、雨に濡れなくていいので、とてもいいお店ですね」
「そうだな」
「よくいらっしゃるのですか?」
「まぁな、松平のとっつぁんとかとな」
「そうですよね。こんな高いお店、私じゃとても来れないですから」
「金のことは気にするな。俺が全部払うから」
「私も払います。私のために付き合って下さってるのに」
「いいんだよ。俺が勝手に連れてきただけだ。たまには高いもん食った方がいいし、も手を休めた方がいい。
 無理して働くな。疲れがたまれば、病気になりやすい。最近、よく風邪引いてるだろう?」


誰にも言わないでと言ったのに。
きっと女中の誰かが土方さんに伝えてしまったのだろう。
今年に入って毎月のように風邪を引いて寝込んでいる。
無茶な働き方なんてしていない。休みだってきっちり取っている。
それなのに、風邪を引いてしまうのはどうしてだろう。


「はい……」
「休んだつもりになっているだけで、本当は休んでいないだろう? 俺と出かけたりしてるじゃないか」
「そう、ですね」
「今日だって、出掛けてただろう?」
「はい。一人の休みは、寂しいので」
「そうか……もう少し、俺が休みを合わせて取っていたらな。
 だから、今日はもうここで飯食って帰って風呂入って寝るだけにしとけ」
「はい、そうします」


でも、今日は出かけてよかった。
土方さんに会えたから。
土方さんと食事ができたから。
土方さんとゆっくりお話しできたから。
雨のやんだ夜道、手を繋いで歩くことができたから。




**************************************************

ちょうど桜が満開ですが雨が降っているので。
そして熱が出ない風邪でやられている。
単純に女の子の日で解熱鎮痛剤を飲んでたから熱が出ないように見えただけなんだろうなぁ。


inserted by FC2 system