[ ミライノキズナ ]





隊士たちの年越しそばを作り終え一息つく。
一緒に食べようと誘われたけれど、土方さんが帰ってくると言っていたから食べずに待つことにした。
待てども土方さんは帰ってこない。
元々正月まで出張だったのだ。仕事が長引いて帰られなくなったに違いない。
せめて年が変わるまで起きて待とう。
女中の住まいである離れのこたつに入り、テレビをぼんやり見ていた。

うとうとして、いつの間にか顔をこたつの天板につけて眠ってしまった。
テレビから鳴り響く年越しを祝う大きな音に驚いて飛び起きる。
肩にかかっていた何かがパサリと音を立てて落ちた。
見慣れた自分のストールと、土方さんのマフラー。
顔をあげると、土方さんがこちらに手を伸ばし、私の頭を撫でる。


「遅くなって悪かった。年、明けちまったな」
「ごめんなさい、うたた寝してしまいました。お腹、空いてませんか? すぐに用意します」
「眠いんだろ。もう休んでくれ。そばなら温めるだけで食えるからな」
「私も食べてないんです。一緒に食べます」
「俺のことは待たなくていいって、いつも言ってるだろ」


土方さんは私を気遣ってそう言ってくれるのだけれど、それが少し寂しい。
一緒に食事をしたい、お話ししたい、傍にいたい。
そう思うことはいけないことなのだろうか。

そばのつゆを温め、固まってしまったそばをほぐして茹でる。
天ぷらを載せれば年越しそばのできあがり。
年を越してしまった今では、ただのそばだ。


「じゃあ大晦日からやり直しな」
「え?」
「年越しそば、作って待ってろって言ったのは、俺だ」
「今は大晦日、ということですか?」
「そうだ」


土方さんは私と年越しそばを食べてから除夜の鐘を突きに行くつもりだったらしい。
さすがにそれはできそうにないから、日が昇ってから初詣に行く約束をして眠りについた。

翌朝、おせち料理を振る舞い、午前中の仕事が落ち着いたところで土方さんと初詣に行く。
神社に着いたら何を願おうか。お守りは何を買おうか。屋台で何を買おうか。
そんなことばかり考えていたら、あっという間に神社についてしまった。
土方さんと二人きりの時間を、全く満喫できなかった。

参拝客を眺めていると、家族連れ、カップル、友人同士、様々な人がいる。
私たちも、ちゃんと恋人同士に見えているのだろうか。
目の前にいる子連れの家族。仲睦まじい親子の姿に心が温かくなる。
素敵な家族だ。うらやましい。
私も親兄弟がいれば、こんな正月を小さいころは迎えていたのだろうか。

いつか私にも家族ができたら、結婚して子供ができたら、この家族のように初詣に来られるだろうか。
到底無理な話だ。誰と結婚するというのだ。
隣にいる土方さんの顔を見る。真っ直ぐ前を見つめている。
土方さんの頭の中は真選組のことでいっぱいだ。あとは剣のことしかない。
私と結婚する気なんて、絶対無い。
でも、いつか土方さんと結婚することができたら、そして子供ができたら、家族で初詣に行きたい。
三人で手を繋いで、子供がたくさんできたらみんなで手を繋いで、行けたらいいな。


、どうした? ぼんやりしてるぞ」
「あ、いえ、なんでもありません」
「今日は冷えるな。帰りにあったかいもん飲むか」
「はい」


賽銭箱に小銭を入れ、手を合わせる。
旧年中の加護に礼をし、新しい年を迎えて新しい願いを掛ける。
今年も土方さんの隣にいられますように、と。

願わずにはいられない。
土方さんが私に興味を持たなくなったらそれで終わりだ。
私は土方さんの隣にはいられなくなる。

参道を下っていると、目の前で小さな子が転んだ。
手を貸さずとも、自力で起き上がり、両親の元に駆けていく。
そして、二人の間に入り、手を握る。
三人で手を繋いで歩いていく。

いつか、私もあんな風に、家族に巡り合えたら。

すっと手を引かれ、指が絡めとられる。
土方さんが照れくさそうに頭を掻いていた。
きっと、手を繋いで歩く姿を私が羨ましがっていると思ったのだろう。

家族になれなくても、こうして今、隣にいて手を繋いでくれるだけで十分幸せだ。


「何を願ったんだ?」
「え?」
「願い事、あるだろ?」
「あ、えぇ……。でも、口にしたら叶わないと言いますし」
の願いは、この手で叶えてやりてぇんだよ」


つなぐ手に力がこめられる。
土方さんはいつも私のことを大切にしてくれて、胸がぎゅっと熱くなる。
どうして自分のことなんて願ったりしたのだろう。
土方さんが大怪我しませんように。真選組のみんなが健康でいられますように。いくらでも願いはたくさんあるのに。


「どうした? 言えねぇことなのかよ。それとも俺じゃ叶えられそうにない願いなのか?」
「いえ、あの、そんなことは。でも、土方さんにご迷惑おかけしますし」
が迷惑かけることなんて、今まで一度もなかったよ。だから、気にするな」
「でも……」
「じゃあ、俺が言えば言ってくれるか?」


夢や願いは己の手でつかみ取る人だ。
そんな人が何を願うというのだ。


「土方さんには神頼みするようなこと、あるのですか?」
「保険だな。俺にだって、どうにもできないことはある。が俺の傍にずっといてくれる保証なんて、どこにもねぇからな……」
「わたし、が……」
「あぁ。いつも一緒にいられねぇし、守ってやれねぇし、全然大切にしてやれねぇ。いつ、愛想尽かされてもおかしくないからな」


遠くを見て言う土方さんの表情は、少し影が落ちていた。
胸が締め付けられて苦しくなる。
同じことを願っているのに、想いの深さが全然違う。
嬉しいのに、とても苦しい。


「泣きそうな顔すんなよ」
「だって、同じこと願っているのに、私は土方さんを気遣うこと全然考えなかった。自分のことしか考えてなくて……」
「それは普通だろ。俺だって、に何にもしてやれねぇのに、傍にいてほしいってわがまま言ってんだ。
 でも、同じこと願っていたのは、嬉しいな」
「こんな私でも、土方さんの傍にいてもいいのですか?」
「当たり前だ、離れんなよ。俺の目の前からいなくなるなよ」


土方さんの手を強く握る。
今年も土方さんの隣で、土方さんの支えになろう。




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年越して、月も変わって正月ネタ……

戸籍上の家族は紙切れひとつだけど、それの重さも、血のつながりのない大切な家族も
たくさん描いている銀魂は、本当によい漫画だなと思う今日この頃。


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