[ ふたりぼっちのショートケーキ ]





二十五日の夕暮れ。
売れ残ったクリスマスケーキが値引きされている。
もったいないと思い、一つ買った。
ホールケーキを一人で食べきられるとは思わない。
誰かと一緒に食べよう。女中たちもいる。非番の隊士もいる。

寄り道をしてしまい、屯所に戻ると皆夕飯をたらふく食べ終えており、食堂には誰もいなかった。
女中たちも片づけを終え、実家に帰っていた。
今日、女中の住まいである離れで過ごすのは私だけだった。忘れていた。

だだっ広い食堂にぽつんと一人。
長机の上でケーキの箱を開く。
プラスチック製の金色のトナカイが、今にも駆けだそうとしている。
一人でそれをぼんやりと眺めた。

クリスマスケーキを買えば、少し気分が晴れると思った。
数日前から土方さんは出張で屯所にいない。
家族で過ごすクリスマス。恋人たちのクリスマス。
傍に誰もいない私には、クリスマスは楽しめそうになかった。
それでも、町が賑わっているから、その空気を少しでも楽しみたいと思った。

どうせなら、万事屋に行けばよかった。
甘いものが大好きな銀時さん、大食いの神楽さんがいるから。
今からでも遅くない。
ケーキを箱にしまい、急いで屯所を出る。
けれど、門番の隊士に遅い時間だからと引き留められた。

電話して来てもらおうか。それはそれで万事屋の皆に迷惑だろう。
再び食堂でケーキを向き合う。
一人で食べるなら切り分ける必要もない。
フォークをケーキに突き刺そうとしたその時、食堂の扉が開いた。


?」
「ひじ、かた、さん?」
「一人で何やってんだ。ケーキ、食ってたのか」


土方さんが戻る予定は正月だ。
どうしてこんなに早く戻ってきたのだろう。
土方さんは私の隣の椅子を引き、そこに腰掛ける。
手が私の頭へ伸びてきて、ゆっくりと撫でた。


「安売りしてたので、皆で食べようと思って買ったのですが、帰りが遅くなってしまって」
「一人で食おうとしてたのか。俺にも分けてくれよ」
「包丁持ってきますね」


取り皿とフォークと包丁、冷蔵庫から取り出したマヨネーズを抱えて土方さんの隣へ戻る。
切り分けて土方さんの前に差し出したケーキは、一瞬でマヨネーズ色に染まる。
苦笑しながら自分のケーキを取り分けた。
土方さんは食器棚から空のワイングラスを持ち出す。
滅多に使わないそれをどうしようというのか。


「ワイン、買ってきた。が生まれた年に作られたんだとよ」
「年代物ですね。高かったのではないですか?」
「それなりに、な。でも、クリスマスを祝うのには丁度いいだろ」
「もったいないですよ」
が喜ぶかと思ったんだが、別の物にすればよかったな」


わざわざ私のために買ってきてくれた。私のために、帰ってきてくれた。
それなのに買ってきてくれたワインをもったいないと言い、喜びもしなかった。
思いやりがみじんも感じられない。最低だ。


「申し訳ありません、そういうつもりではなかったのですが」
「いいんだよ、俺が勝手にやったことだ」
「あの……、帰ってきてくれてありがとうございます」
の顔が見たくなって、我慢できなかっただけだ」


土方さんはグラスにワインを注ぐと、おもむろに私を抱きしめた。
耳に土方さんの吐息がかかってくすぐったい。
「会いたかった」と囁かれると、体中の熱が顔に集まってきて爆発しそうになる。


「顔を合わせないことなんてしょっちゅうなのに、離れているって思うと、どうしようもなくなる」
「私も土方さんに会いたかった。一緒にいたかった」
「俺は、に会いに帰ってきてよかったんだな」
「はい、とても嬉しいです。ありがとうございます」


ケーキもワインも放ったまま、二人で抱き合っていた。
たった数日近くに居ないだけで辛かった。
町にあふれかえる恋人同士や家族連れがうらやましかった。
クリスマスも大晦日も、ひとりぼっちだと思って悲しかった。


「大晦日には戻ってくるから、正月は初詣に行こうな」
「はい」
「年越しそば、用意して待っててくれ」
「はい。おいしいものを用意して待ってます」


いつだって土方さんは私のことを考えてくれる。
いつだって土方さんは私に優しくしてくれる。
いつだって私は自分のことしか考えていない。

もっと土方さんに優しくしたい。
土方さんの心のよりどころになりたい。
来年は、そんな年にしたい。

そんなことを思いながら、土方さんの背に腕を回した。




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忘年会で食べた濃厚ショコラにのってたトナカイは金色でした。
おいしかったー。
ホールケーキは大勢で食べた方がいいですね。


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