[ peony ]





市中見廻りの帰り、煙草を切らせてしまい煙草屋へ寄った。
歌舞伎町の通りを歩いていると、遠くに見慣れた背を見かけた。
白いビニール袋を重そうに提げている。
駆けて追いつこうとしたそのとき、横から銀髪天然パーマの男がふらりと現れ、の手に提げた袋を取り上げた。
は隣の男に向かって笑顔で話しかける。

イライラする。
の隣に他の男がいることに。
そこは俺の場所だろ。
でも、は楽しそうに万事屋と話している。
楽しそうにしているの邪魔はしたくない。

てめーの家はすぐそこだろ。
早く帰れよ。
まさか、屯所までの荷物持っていくつもりか!?
いい迷惑だ。
さっさと退けよ。

悪態をつきながら万事屋の背を睨み付けていると、奴がこちらを振り返った。
顔をひきつらせながらに声を掛け、袋をに渡して走っていく。
その姿を眺めていると、がこちらを振り返り、ぱっと顔を輝かせてこちらへ歩いてきた。


「土方さん! お仕事中ですか?」
「いや、見廻りは終わったから屯所に帰る」
「屯所まで、ご一緒してもいいですか?」
「当たり前だろ。ほら、荷物持つからこっちに」
「ありがとうございます」


重い荷物を手に提げて、の指は真っ赤になっていた。
赤くなった指先に触れる。


「重い物を買うときは言ってくれりゃ車出すから」
「こんなに買うつもりはなかったので。
 それより、さっき銀時さんが『焼き殺されそうなくらい背中が痛いから一人で帰る』と言ってましたけど、何かありましたか?」


どうやら俺の視線を感じていたらしい。
焼き殺されそう、か。


「焼き殺すっつーか、妬き殺すだろうな」
「何がですか?」
「なんでもねぇよ。気にすんな」
「はい。土方さんと一緒に歩けるのがとても嬉しいです」


驚いた。
二人で並んで歩いて帰ることがそんなに嬉しいことなのか、と。
だから、万事屋が隣にいるときも楽しそうにしていたのか。


「誰かが隣を歩いているのが嬉しいのか?」
「誰でもいいわけじゃないんです。土方さんと一緒にいられるのが嬉しいんです。あまり一緒にいられないから」


少し寂しそうな表情をする
できるだけと一緒にいられるように努力しているつもりだった。
だが所詮、『つもり』だった。
仕事をないがしろにはできない。のことが二の次になってしまっていた。


「今日は、残務整理くらいだ。一緒に、晩飯食えるか?」
「はい! 今日は早番なので、この買い物が終わったらあがります」
「そうか、じゃあ外に食いに行くか?」
「だったら、今日は土方さんの大好きなアニキが出てる映画のレイトショーがありますよ。見に行きませんか?」
「そうだな。飯食って見に行くか。それまでに書類片付ける」


今日は運がいい。
きっと、ここでを見かけなかったら普通に残務整理して、食堂で晩飯食って風呂に入って寝るだけだった。
棚からぼたもちとはこのことか。

隣にいるはニコニコ笑っている。
少しほっとした。
隣にいるのは俺がいいらしい。

手を伸ばして、の手を掴む。
何を血迷ったか。制服姿のままと手を繋ぐ。
が驚くのも無理はない。
俺自身が驚いている。
でも、離そうとは思わなかった。


「土方さん、あの、制服姿のままですけど、いいんですか」
「何がだ」
「誤解されませんか」
「誰に」
「周りにいる人たちに」
「させときゃいいだろ。俺が繋ぎたいと思ったから繋いでるんだ。それとも……は俺と手を繋ぐのは嫌か?」
「と、とんでもない! とても、嬉しいです」


頬を赤く染め小さな声で言ったその言葉が、俺には嬉しかった。
些細な事だけれど、に喜んでもらえたことに、満足した。
残り少なくなった今日も、もう少し楽しめそうだ。




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ヒロインと銀さんが仲良しで、土方さんが嫉妬する話が書きたかっただけ。
私は、土方さんが尋ねるときに「嫌か?」と言うのが好きみたいです。

peonyは、棚からぼたもち→牡丹餅→牡丹の英名からもってきました。

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