[ ゆく年、来る年、君と過ごす ]





大晦日に羽目を外しすぎる局長を横目に、俺は宴会場を後にする。
自室に戻る途中、暗がりの中をが盆に徳利を数本載せてやってきた。
駄目だ。あんな場所にを行かせられない。


「お疲れ様です、土方さん」
「今、近藤さんが全裸になってっから、俺が持ってく」
「別に構いませんけど」
「俺が構うから」


嫁入り前の女にあんな姿見せられるか。
それ以上に、真選組局長という立場の人間のあんな姿を外に晒すことができるわけない。
盆を奪い取って宴会場の障子を少し開き、中へ盆を押し込んだ。
近くにいた隊士に酒の追加が不要と確認し、俺は再び縁側を歩く。
はさっきの場所で立っていて、俺の姿を確認すると一礼した。
月明かりの下、の白い肌が少しきらめく。


「ありがとうざいます。まだお酒の追加は必要かわかりますか」
「いらねぇってさ。っつーか、お前、年の瀬に実家帰んねーのか?
 まさか、近藤さんに宴会の酒を用意するためだけに残らされてんじゃねえだろうな?」
「いいえ。物心ついたときから家族はいませんので、帰るところもありません。だから住み込みで働かせていただいてます」
「悪い。知らなかった」
「いいえ、こうしてみなさんのお役に立てて、私は嬉しいです。たくさんの兄ができたみたいで、毎日幸せですよ」
「ろくでもねえ兄貴だらけだな。ドSに目覚めた弟もいるし。あとは、うるせー母親みてぇな女中連中と」
「ふふふ、大家族ですね」


明かりが灯ったかのように笑う
ここにきて月日が浅いのこと、俺は何にも知らないんだな。
知る必要も、特にないが。


「土方さんは、お部屋へ戻られますか?」
「あぁ。気になることもあるから、もうしばらく起きてる」
「お茶を淹れましょうか?」
「あぁ、頼む」


自室に戻り、行燈に火を入れる。
煙草を咥え一息ついていると、の声が障子の向こうから聞こえた。
「入っていいぞ」と返事をすれば、障子がするすると開き、が顔を出す。
盆に載せた湯呑みを机の上に起いた瞬間、外から新年を祝う大声が聞こえてきた。
近藤さん、近所迷惑だからやめてくれ。


「今年も無事に年を越せましたね」
「無事かどうだか」
「土方さん」
「ん?」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「あぁ。よろしくな」


こいつの顔を見ていると胸がすっと軽くなる。
俺より年下だが、いつでも穏やかな顔をして行動も落ち着いている。
冷静沈着というよりは、マイペースだ。

ふわりと笑い、は部屋から出ていく。
この笑顔をずっと隣に置いておきたいと思うようになるのは、もう少し先の話。




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原作の大晦日の話。ヒロインの設定をねじこみつつ、短めに。
あの宴会場に女中が入るわけにはいかないよね、絶対。
局長の面子丸つぶれぇぇぇぇぇ!!

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