「おい、。目が死んでるぞ」
「し、失礼ね!」
「ハハ、冗談だって。ほら、大丈夫か?」

すっころんで掌は泥まみれ。
遠い目をしていたら、柊くんがふらりと現れた。
他の男子だったら、私の姿を見て大笑いしていたと思う。
大人でクールなところが好きだ。

それに、こんな私に手を差し出してくれる。
自分の手が泥で汚れることも気にせずに。

「柊くんの手が汚れちゃうよ。私なら大丈夫」
「そうか? なら、これ」

立ち上がって両手を払う私に、柊くんはタオルを差し出す。
これから部活で使うであろう、まだ綺麗なタオルを。

「これで拭けよ」
「いやいやいや、だって私泥だらけなんだよ」
「泥だらけのを放っておけるかよ」
「でも、悪いよ」
「いいって、気にすんな。それくらいしか俺にはできねえから」

タオルを置いて体育館の方へ柊くんは歩いていく。
優しいし、思いやりがあるし、本当に素敵な人。
だから、いつも、私は柊くんに恋する。
叶う、叶わないなんて問題じゃない。
好きっていう気持ちがあること、それだけで幸せになれる。





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