カッターシャツだけで来たのは失敗だ。
とても冷える。
ブレザーかカーディガンを着てこればよかった。
腕をさすりながら、文化祭のチラシを作る。

放課後の教室でひとりぼっち。
人の熱が無いから寒いんだ。


、寒いのか?」
「ひ、柊くん!?」
「ユウレイでも出たような声出すなよ……」
「ごめん、びっくりしちゃって」


私とは正反対で、柊くんは暑そう。
額の汗を手で拭い、抱えていたブレザーを机の上に投げ出す。
そして、そのブレザーをまた手に取り、こちらを見る。


「着る?」
「え? あ? えっと……」
「俺がいつも着てるやつだから嫌だよな」
「そんな! とんでもない。でも、まだ時間かかるからすぐに返せないし」
「明日返してくれればそれでいい。俺は部活のジャージもあるから寒くはならねえよ」


カッターシャツで来たのは正解かもしれない。
大好きな人のブレザーを借りれるなんて、一生に一度あるかわからないよ。
ブレザーの袖に手を通すと、やっぱり袖が長くて手が隠れてしまう。
ブラブラと手を揺らすと、柊くんが笑った。


「ハハッ、それ、かわいいな」
「柊くんの方が私より大きいから、当たり前だよ」


手首から先を袖から出し、私は作業を続ける。
指先も冷えてうまく字が書けない。
休憩がてら手をこすりあわせていると、鞄を持って帰ろうとする柊くんが足を止めた。


「手、触っていい?」
「え?」
「冷えてるんだろ」


イエスとは言っていない。
ノーとも言っていない。
だから工程と捉えたのだろう。
柊くんの指先が私の右手の甲に触れる。
そして、手を包み込む。


の手、冷てえ」
「柊くんの手が冷たくなっちゃうよ」
「構わねえよ。走ってきたから熱いんだ。冷たくて気持ちいいな」
「柊くんの手は温かくて気持ちいいよ」


どうしよう。
手を触れ合って、見つめあって、キスでもできそうなくらい近い距離で。
口から「好き」って言葉がすぐに出そう。





[ 温める ]





BACK>

inserted by FC2 system