社員通用口で。
総務部調査課前の廊下で。
社長室へ向かうエレベーターの前で。
食堂のサラダバーで。
三時のおやつを買いに来たショップで。

いつもすれ違うレノさん。
向こうは私の名前など知らないだろう。
タークスは有名人だから、顔も名前も一致する。
けれど私はただの事務職。正社員でなくても問題ないくらいの立ち位置。

真っ赤な髪が、派手で目に痛いのに、見るのをやめられない。

「俺の顔に何かついてるか?」
「えっ、あ、いえ……」
「そっか、何もついてないのならそれでいいぞ、と」
「申し訳ありません。綺麗な赤だったもので」

レノさんの顔を直視できず、謝罪の意味を込めて頭を下げたまま逃げた。

恥ずかしい。両手で顔を覆う。
スタスタと早足で廊下を歩いていると、正面から来た誰かとぶつかった。
その誰かは私の二の腕に手を添えている。

「ごめんなさい」
「気にするな。今度から気を付けて歩けよ、と」

独特の口調に両手を顔から外した。
口角を上げたレノさんが、ポンと私の頭を撫でて通り過ぎていった。

どうしよう、からかわれている。
だって、どうやっても私の真正面の道へ行く方法は、私を追い越すしかないんだもの。
胸を鷲掴みにされたみたい。





[ 擦れ違う ]





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