憂鬱だ。
休職届を出したい。
出社して、自分の机に置かれた数枚のメモ。
全部、社長からの要件だ。
メールの返信をよこせ、紅茶を買ってこい、また電話する。
ため息をついて、事務所を出た。
とりあえず、紅茶を買いに行こう。

ノックもせずに社長室へ入り、社長の目の前に紅茶を差し出す。
普段買わないような高級な紅茶だ。
2パック買って、1パックはもらっておいた。


「ご苦労、。何も言わずにこの銘柄を買ってくるところが上出来だ」
「長い付き合いですからね、言わなくてもわかります」
「そろそろどうだ?」
「断固、拒否します」
「つれないな」


一般市民が社長と結婚を前提として交際するなんてありえない。
しかもこの私が。
社長に気に入ってもらえているということは、リストラに合うことがないと思っているから嬉しいが、
まとわりつかれたら彼氏もできやしない。
私は普通の生活がしたいだけなのに。

肩を抱かれそうになったから、両手で相手の胸を押して突き放そうとしたら、逆に胸に引き込まれた。
抱きしめる力が強くて抜け出せない。


「やだ、離して〜」
「断固、拒否する」
「セクハラで訴えてやる!」
「すぐに揉み消すさ」
「横暴!」
「なんとでも言えばいい」


社長の腕の中でもがいていたら、急に抱きしめていた腕が解放されて私は勢いで後ろに倒れてしまう。
尻餅をつくかと思えば、社長に抱きかかえられていた。


「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」


急に社長がイケメンに見えた。
でも・・・


「元はと言えば、あんたが悪いんでしょうがっ!」
「誰に向かってそんな口を利いているんだ、?」
「社長ですよ、しゃ・ちょ・う!」


こんなことをしていても仕事が進まないから、そっぽを向いて社長室を出た。
紅茶を買いに行ったのがダメだったんだね。
ちゃんと突き放さないと、社長にとっても私にとってもマイナスのままだよ。





[ 突き放す ]





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