人の噂も七十五日。
いつの間にか、ルーファウスと出会う前の日常に戻っていた。

神羅ビルを見れば思い出す。
神羅社員を見かければ思い出す。
ソルジャーを見かければ思い出す。

出会ったことは、消えない事実。
付き合っていたことは、消えない事実。
一瞬でも愛し合っていたことは、消せない事実。

まだ、うまく笑えない。
たくさん後悔した。
でも、前に進みたい。

時々、声が聞こえる。
ルーファウスがわたしの名を呼ぶ。


「ル、ルーファウス!?」
「久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりでございます。ルーファウス様」
「他人行儀はよせ」

以前見かけたときより、血色のよい顔をしている。
けれど、昔のように、わたしを見かけてすぐに髪を梳いたり、腰に手を添えたりすることはなくなった。
それが、わたしたちの関係が変わったことを物語っている。


「なんでしょうか」
「時々、会ってくれるか」
「わたしとですか? 会ってもつまらないでしょう?」
「回答は『否定』ではないと捉えてよいか?」
「ご自由に」

時々、彼はわたしを呼び寄せるようになった。
わたしの髪に手を伸ばすが、触れない。
わたしの肩に手を伸ばすが、触れない。
息がかかりそうなくらいわたしに近づいてくるが、キスはしない。

彼は何がしたいのだろう。

「私は、を呼びたいと思っている」
「は?」
「意味は、帰って調べればよい」





[ 呼ぶ ]





『呼ぶ』には古典で「妻としてめとる」という意味があるらしい。
何を今更。
でも、まんざらではない自分がここにいる。
目を閉じて、ルーファウスのことを想った。





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