後姿ならいくらでも眺めていられる。
でも、すれ違う時にまともに目を合わせられない。
挨拶する声がかすれる。
「おはよう、ございます、社長」
「おはよう、。風邪か?」
「い、いえ・・・」
「そうか。喉は大事にしろ」
「はい」
「綺麗な声が台無しだ」
何を思ってそう言うのだろう。
私の声は綺麗なんかじゃない。
もっとかわいらしい声が出ればいいのに。
だめだ、だめだ、だめだ!
社長を好きになったらいけない。
身分違いの恋はやめなさい。
神羅社員やソルジャー、いくらでもいるじゃない。
そうやって、どんなに努力しても、私は社長に惹かれる。
だから、恋心を隠すしかない。
すれ違った後姿に頭を下げて任務のために神羅ビルの外へ飛び出した。
重い足取りで事務所へ戻ると、隣の席でレノが珍しく報告書をまとめていた。
今夜は合コンで、定時帰りするらしい。
私の机の上にまで、書類やのど飴、食べかけのポテトチップスを散らかしている。
「ちょっと、私の机の上にまで広げないで」
「悪かったぞ、と」
「これはも忘れてるよ」
自分では絶対買わない高いのど飴が私の机の上に残っている。
差し出すと、レノは首を振った。
「社長が置いて行ったぞ、と」
「社長が?」
「あぁ、喉の銚子悪いんだって?」
「ただ、声がかすれただけなんだけどな・・・」
冷徹だけど、時には優しくて、惹かれないわけがないじゃない。
のど飴の袋をぎゅっと握りしめた。
[ 秘める ]
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