からディナーに誘われた。
珍しいこともあるものだ。
それだけで満足する。
の考えていることはまったくわからないし、理解するつもりもないが。
誘いを受け入れると嬉しそうにしていたが、今日はどことなく陰があるように見えた。


「ねえ、ルーファウスさん、知ってました?」
「何がだ?」
「私、ルーファウスさんのこと、騙してました」
「そうか」
「驚かないのですね」
「十分驚いている。具体的には?」


この私が騙されることなんてあってたまるか。
そう思い、驚いていないふりをした。
こんなに動揺するのは久しぶりだ。


「私、両親の敵討ちのためにあなたに近づきました。
 本当は、あなたのお父様が目的でしたけど、もうそれもできないので」
「・・・そうだな。それで、代わりに私を?」
「そう思っていました。でも、あなたは、私のことを警戒することなく受け入れてくれた。
 だから、いつの間にか自分のことも騙していました」


自分を騙す必要はあるのだろうか。
私には到底理解できない感情だ。


「好きって思った瞬間、駄目になると思いました。だから、ずっと自分を騙していた。
 けれど、もう限界だなって思ったんです。だから、今日でお別れです」
「おい、!」
「さようなら、愛した人。私を追いかけてはいけませんよ、ルーファウス」


そんな風に言われたら、追いかけたくなる。
惚れた弱みか、騙されていたことに怒りの感情は湧き出してこなかった。
それよりも、が側にいないことに対する感情の方が、何倍も湧き出してくる。





[ 騙す ]





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