だめだ。だめだ。
掴まれた腕。
離さなきゃ、だめだ。
でも、振り払えない。
尻尾のように垂らした赤い髪の束を見つめるだけで何もできない。
ただ引きずられるように歩く。

「レノ、だめだよ」
「何が?」

レノが怒ってる。
いつもの口癖がない。

「俺は、いつでもが振り払えるように掴んでる。振り払う気がないだけだろ?」

挑発だ。乗らないわけがない。
力を入れずとも、レノの手は簡単にほどけた。
解放された腕は、だらんと垂れて身体の横につく。

雨の匂いがして、アスファルトにパラパラと雨が打ち付ける。
視界を遮るのは、レノの身体。

「レ、ノ・・・」
「ほら、振り払えよ」
「・・・」
「できないんだろ」
「う、ん」
「俺には、甘えればいい」
「そういうわけにはいかない」
「俺がいいって言ったから、いいんだ」

レノのやさしさに甘えてばかりで、私は前に進める気がしない。
だから、前に進むために振り払わなくちゃ。
できるなら、こんなことにはならないよ。

それはきっと、レノが私のことを好きでいてくれるという、妙な確信があるから。

もうだめだよね。
本気でレノのこと、好きにならなくちゃ。
レノの身体にそっと腕を回した。




[ 振り払う ]





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