忘れたくても、忘れられない。
好きだから、しょうがない。
報われない恋だとわかっている。
だって、立花くんには芳川さんがいるもの。

立花くんが長崎に旅立って、みんな、気丈に振舞っていた。
強いんだな。
私は、うじうじ悩んで、前に進めなくて。
誰か、立花くんのことを忘れるための魔法をかけてくれないかな。


「柊くん」
か、どうした? なんか、最近元気ないよな」
「うん」
「立花、か」
「うん」
「忘れられないってか」
「うん」
「無理に忘れる必要もないんじゃねえの?」
「そうかな? だって、絶対実らない恋だよ。
 芳川さんは立花くんのことが好きだし、立花くんも芳川さんのことが好きだし、私には入る隙ないよ」


溜息だけが、私の友。





[ 忘れる ]





「立花以外のこと、見ろよ」
「え?」
「立花のこと、忘れたいなら、他の奴のこと見ればいいだろ」
「そう、だね」


は鈍感だから、気付いてくれないよな。
俺が、どれだけのこと、想っているかなんて。
俺のこと見て、笑ってくれよ。
無意識の内に、腕を伸ばしての体を捕まえた。


「ひ、いらぎ、くん?」
「立花のこと忘れて、俺のこと、見ろよ」
「あっ、えっと」
「好きだ」


小さく「ありがとう」と聞こえた。
俺の体に腕を回してはくれなかったけど、制服の裾を掴んでいたのは、立花のことを忘れる努力をしてくれると捉えていいんだよな。




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