社長室を訪れたが誰もいなかった。
ぐるりと部屋を見渡し、社長席に座ってみる。
座る機会なんて皆無だから、貴重な体験だ。
背後の一面ガラス張りのところから、世界を見渡す。
夕焼けが世界を赤く染める。

気配を隠して近づいてきたらしい。
椅子越しに背後から抱きしめられた。


「社長?」
「久しいな、
「ずっと立て込んでてお会いできなかったので、来てしまいました」
「手が、冷たいな」


膝の上で組んでいた手に、社長の手が重なる。


「冷え性なので、手足は冷たいんです。ご存知でしょ?」
「そうだったな。それすら忘れるくらい、久しぶりだ」
「はい、だから、温めてください」


社長は両手で私の手を包み込む。
とても温かい。
横を向いたら社長と目が合う。
自動的に、目を閉じてしまう。
それは、悪いことではなくて、ただキスしてほしいという合図。
社長は黙って私の唇に唇を重ねた。





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