目の前を跡部くんが歩いている。
でも緊張して声を掛けられない。
でも掛けたい。でも掛けられない。
あー、どうしよう。
跡部くんが一人だなんて珍しいことだし、私も一人だなんて珍しいことだし。
勇気を出して声を掛けたい。
一緒に歩きたい。
跡部くんが足を止めた。
声を掛けるならチャンスだ。
一歩踏み出して口を開いた瞬間、跡部くんが振り返る。
夕日が跡部くんを照らす。
逆光でよく見えないけど、跡部くんが笑った気がする。
胸が跳ねる。
息を飲んだ。
綺麗すぎて、声を掛けるのが躊躇われる。
「、帰りか?」
「・・・」
「返事なしか。なんつー顔してんだ」
「あ、跡部くん」
「今更、俺の名前を間違うことなんてないだろ?」
「あ、うん。今、帰りだよ」
並んで歩くのすら躊躇ってしまうよ。
それくらい、跡部くんが高貴な人に思える。
「何、躊躇ってんだよ」
「えっ?」
「ずっと俺の後ろついてきてただろ。いつになったら声掛けてくれるのかと待ちくたびれたぜ」
「えっ」
「ボキャブラリーねえのな」
「し、失礼ね!」
また笑った。
今度は隣にいるからよく見えた。
やっぱり、声を掛けるのが躊躇われるほどに綺麗だ。
[ 躊躇う ]
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