「朝倉!」
「お前・・・誰だ?」
「私の顔も覚えてないくらい売れてるの?」
「冗談だ。真に受けんなよ、



笑った。朝倉が笑った。
ライブ中は真面目な顔をしてて、ちっとも笑わない。
アーティスト写真も、無表情だったり、むっつりしていたり。


懐かしいな。朝倉と話すのは中学以来か。
当時は女子の中では断トツで朝倉と仲良しだったのにな。



「そういや、卒業式で俺の第二ボタンもらっていった奴のこと覚えてるか?」
「えーっと、タコみたいな子」
「タエコだ! あいつ、どっかの御曹司と結婚したらしいぜ」
「へえ、玉の輿じゃん。そうそう、一年のとき、私に告ってきた男子覚えてる?」
「ああ、サッカー部のエースだろ?」
「そうそう。東大の医学部だって。振らなきゃよかった。将来医者じゃん!」
「うまくいった保証あるのかよ?」
「ないね。私は朝倉一筋だから」
「冗談よせよ」
「ふふふ、懐かしいね。もうあの頃には戻れないんだよ」


両想いだったのに、お互い踏み出せなくて、恋仲にはなれず今に至る。
今からでも遅くないって?
ううん、もう遅いの。
懐かしい思い出は、心の中に。
新しい思い出は、これからたくさん作っていく。
でも、そこに、朝倉はバンドマンとしての朝倉として残っていくんだよ。

朝倉の思い出に、ファンとしての私がたくさん残ってくれればいいな。





[ 懐かしむ ]





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